151 真空の力で土壌セシウム除染
掲載日:2025年12月23日
低温・短時間での効率処理
粘土質で課題
日本原子力研究開発機構は、土壌に固着した放射性セシウムを取り除く、新たな熱処理による除染法を開発した。処理環境を真空にすることで、従来法より低い温度かつ短時間でも除染率は同等の9割超を確保した。今後、反応条件の最適化を探るほか、処理量のスケールアップにも着手することで、環境回復の取り組みへ貢献する。
原子力発電所事故で生じる主要核種のセシウムは、土壌中で粘土鉱物に強く固定されると簡単には除去できなくなる。このため、セシウムを多く含む粘土質の土壌の除染は難しく、除染法として様々な方法が開発されている。
そのうちの一つの熱処理法は、粘土鉱物を高温で融解してセシウムを揮発させる土壌除染法だ。粘土質土壌でも90%以上の高い除染率から有望とされるが、1000℃以上の高温加熱が必要で、他と比べてコストが高いという弱点を抱える。このため処理温度の低減化が大きな課題だった。
食塩を添加剤に
私たちは、除染法の効率化を進める中で条件を見直した。塩化ナトリウム(食塩)を添加剤として土壌に混ぜ、真空中で熱処理を行ったところ、処理温度を約800℃まで下げることに成功した。図に示すように、真空中では600℃付近から除染率が上昇し、800℃を1時間維持すると9割のセシウムが除去される。一方、従来型の大気中での熱処理は、800℃付近で15%程度しか除去されなかった。真空こそが反応を加速させ、除染効率を劇的に高めていたのだ。
要因を知るため、高温X線回析法で粘土鉱物の結晶構造変化を調べた。すると真空熱処理では結晶構造は保持されている。除染は融解を通して進行せず、代わりとして粘土鉱物の層間距離が急速に収縮することを確認した。これは粘土鉱物の層間に存在するカリウムイオンやセシウムイオンが、それよりもサイズが小さいナトリウムイオンに置き換わる過程で除染が進行したことを示している。大気中では生じず、真空中で促進されるイオン交換は、初めて見いだした新現象だ。
実用化へ検証
今回は実験室の試験段階であり、福島県内で採取した4㌘ほどの土壌を用いた。実用化までには、今後、キログラムベースでの実証試験による有効性検証や、コスト評価も検討する必要がある。真空熱処理の効率向上に、塩化ナトリウムよりも除染効率の高い添加剤の探索も進めたいと考えている。

