原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

149 粘土鉱物から熱電材料を開発

掲載日:2025年12月9日

原子力科学研究所 パイオニアラボ 本田未来粘土材料研究開発ラボ
ラボリーダー 本田 充紀

東京電力福島第一原発事故後、環境回復研究に従事し、セシウム除去技術を確立。その経験を基に、粘土鉱物を機能性素材へ転換する研究を進めている。近年は風化黒雲母を用いた熱電変換材料の開発に成功し、産業排熱の再利用による脱炭素社会の実現を目指す。

低コスト・高温適正強み

実用化に挑戦

日本のエネルギー自給率は2023年度時点で15.3%と、主要先進国の中でも極めて低い。1次エネルギーの多くを化石燃料に依存することに加え、燃焼で生じる膨大な熱の多くを活用できていないのが要因だ。

こうした中、未利用の廃熱を電気に直接変換できる「熱電材料」が、エネルギー効率改善などに直結する有望技術として注目される。しかし、ビスマスやテルルなど希少元素が必要で、費用や供給リスクが課題だ。

日本原子力研究開発機構では、地球上に豊富に存在し、環境無害な粘土鉱物「風化黒雲母(WB)」に着目。高温環境で使える熱電材料の基盤技術を開発し、実用化に向け挑戦中だ。

WBは層状構造を持つ「層状ケイ酸塩鉱物」が主成分だ。花崗岩中の黒雲母が風化で部分的に変質したもので、鉱物学的にはパーミキュライトと同類。東京電力福島第一原子力発電所事故で出たセシウムは地表付近の粘土鉱物に留まったが、一因はこの構造にある。

手法を確立

研究チームはセシウム除去土壌研究を基に、WBを粉砕・分級し、溶融塩(塩化ナトリウムと塩化カルシウム)中で熱処理する手法を確立。結果、元の構造を保持する結晶相と、元とは異なる構造転移相を併せ持つ新規材料創出に成功した。性能を調べると700~850℃で半導体並の電気伝導率を示した。ゼーベック係数も700~750℃で最大値、無次元性能指数(ZT)は最大0.015を記録(24年5月時点)。ZT値は高性能材に及ばないが、高温域で繰り返し安定して機能する。

熱電性能発現の鍵は、溶融塩由来のイオンがイオン交換でWBの層間に入ったり、新たな結晶が形成されたりする点にある。電子やイオンの流路が生じたことで、絶縁性の粘土鉱物は機能性材料へと進化した。

排熱再利用に

持ち合わせた特性から、自動車部品製造やセラミックス焼成、製鉄所や化学プラントなどの高温環境を伴う現場での排熱再利用に適している。同サイズの材料と比べ性能は劣るが、材料コストが極めて安い。そのため、発電単価の面で有利となる。資源価格高騰や環境規制の強化の中、社会的意義は大きい。

開発した新素材の製法は開放特許として登録済みだ。今後は結晶構造の詳細解析を進め、ZT向上と熱電モジュール化を目指し研究を加速する。未利用熱の有効利用で、エネルギー自給率向上と産業競争力強化に貢献していきたい。