148 中性子で探る物質の性質起源
掲載日:2025年12月2日
原子・スピンの配置解析
結晶構造が舞台
「物質の性質」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。硬いか柔らかいか、透明か色がついているか、電気を通すか、磁石にくっつくかどうか―。物質の性質と一言でいえども多種多様で、全ての物質にはその物質特有の性質がある。私たちの身の回りのモノやデバイスは、さまざまな物質の性質を巧みに組み合わせて成り立っている。
こうした性質の多くは、構成する原子の結合状態、電子やスピン(原子サイズの小さな磁石)の振る舞いに由来し、原子配置、つまり結晶構造を舞台に生じる現象だ。このため、物質の性質を理解する上で、その構造を知ることは欠かせない第一歩といえる。
特殊な磁場応答
物質の構造を調べる方法はいくつか存在するが、大強度陽子加速器施設J―PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)では中性子を使った解析が可能だ。
原子核から取り出した中性子ビームは水素やリチウムといった軽元素に高い感度を示し、物質を透過しやすい特長を持つ。加えて、中性子自体が小さな磁石として振る舞うので、物質内部の磁気的な性質を直接調べることもできる。これらの利点を活かし、水素原子の位置やスピン配列の解析、極低温や強磁場下での測定が盛んに行われている。
私が担当する「千手(SENJU)」は単結晶試料を対象とした中性子構造解析装置で、2025年のノーベル化学賞受賞が決まった北川進氏も、金属有機構造体研究で利用された。
さらに、磁性体など「方向」が重要となる観察では、SENJUの精密な構造解析力が威力を発揮する。一例として我々の研究を紹介したい。
観察対象は通常は強磁性体でしか観測されない「特殊な磁場応答」を示す反強磁性体だった。分析の結果、物質中でスピンが特殊な二種類の配置をとることで、反磁性体でありながら強磁性体のような磁場が内在するかのごとく安定的に振る舞っていることが判明。新しい磁気デバイスへの応用を期待させるに十分な成果となった。
「道具」で貢献
現在、SENJUでは検出器増強が進められており、測定効率は現状比1.8倍と大幅な向上を見込んでいる。また、より簡便かつ信頼度高く実験と解析を行うため、機械学習や先端的な計算科学の手法を取り入れた新たな技術の開発にも取り組んでいる。
装置や解析技術は科学研究に欠かせない道具だ。今後も優れた道具を提供し、科学の進展に貢献したい。

