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原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

145 スパコンシミュレーション「その場」制御

掲載日:2025年11月11日

システム計算科学センター
研究主幹 河村 拓馬

2011年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(電気工学)。同年に日本原子力研究開発機構システム計算科学センターで博士研究員となり、2016年に研究員として入構。2024年から現職。スパコンを用いた大規模シミュレーションの可視化技術について研究を進める。日本原子力学会、可視化情報学会会員。

効率化しながら精度向上

アプリ開発

原子力や航空宇宙、自動車など広範な産業で、スーパーコンピューター(スパコン)上の精緻なシミュレーションが活躍している。だが解析精度の向上に向けて、大量の計算データ(ビッグデータ)を可視化して計算条件を制御することが課題となっていた。そこで日本原子力研究開発機構は計算中に「その場」介入し、スパコン上の計算空間を見ながら計算条件を制御できるアプリケーション「IS―PBVR」を開発し、シミュレーションの精度向上と効率化の両立に貢献している。

研究室レベルの実験が難しい原子力分野では、シミュレーションで機器設計の最適化や予測精度向上を進める。技術が進むにつれ、シミュレーションを見ながら、対話的に計算条件を扱う「その場」制御技術が求められていった。

例えば、1回で数百テラバイト(テラは1兆)のデータを生成するシミュレーションを行うとする。計算データ出力に数時間、ユーザーパソコン(PC)への転送で数日、計算データ可視化は数時間、計算条件を変更したシミュレーションの再実行で数日…と、待ち時間が延々続く。また、複雑なビッグデータの可視化は処理速度に課題が残り、仮想現実(VR)空間への落とし込みもできなかった。

VR可視化実現

一連の問題を解いたのがIS―PBVRだ。スパコン上の計算空間をVRで可視化、遠隔地のPCから実行中のシミュレーションに直接介入し、計算条件を対話的に変更することで待ち時間を解消できる。

技術のポイントが粒子ベースボリュームレンダリング(PBVR)でビッグデータを可視化用粒子データに変換する点だ。数千~数万分の1に圧縮し、データ転送や可視化の処理時間を削減した。

さらに、画像処理半導体(GPU)で粒子データを高速描画し、VR空間での対話処理に必要な描画速度(1秒60フレーム)を達成。ヘッドマウントディスプレーを用いた遠隔VR可視化を実現した。

活用の幅広がる

これらは数値流体力学(CFD)解析に特に威力を発揮する。都市街区での汚染物質拡散シミュレーションに適用したところ、計算実行中に瞬時に可視化され、観測データと合致する計算条件を並行探索できた。

IS―PBVRはオープンソースとして公開。「富岳」での大規模計算や産業界の機器設計解析などでも活用されている。今後も可視化技術の進展を進める方針だ。