原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

144 海成段丘の光ルミネッセンス年代測定

掲載日:2025年11月4日

東濃地科学センター ネオテクトニクス研究グループ
研究員 小形 学

大学で地球環境学を専攻し、博士号を取得。学生時代からルミネッセンス年代学を専門とする。原子力機構入構後は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発の一環として、隆起・侵食評価技術の開発に従事し、山・川・海の堆積物の年代測定を担当。ルミネッセンス年代測定法を用いた断層活動性評価についても検討中。

被ばく線量を軸に推定

痕跡を墓に

日本の海岸沿いには階段状の地形「海成段丘」が広く分布する。この地形は地殻変動で海底が上昇した証で、その形成史の把握は、地層処分の検討に必要な隆起速度の推定に役立つ。そこで日本原子力研究開発機構は、自然放射線の痕跡を基にした年代測定法で形成時期特定の高度化に取り組んでいる。

形成史調査はいつ頃どのようにしてできたのかを解明するため、地質などから時間軸を割り出す必要がある。さまざまな年代測定法が確立しているが、対象試料や測定年代範囲などは異なる。事象に適した方法を選択できるかが肝要だ。

海成段丘の年代測定では、過去の火山噴火由来の火山灰を年代指標にする「火山灰層序学」が主流だ。一方で、段丘堆積物中に火山灰がない場合も多い。その際は、段丘形成が氷期・間氷期サイクルに伴う海水準変動と関係することを利用し、段丘対比を行って形成年代を推定する。ただし、段丘形成と海水準変動は必ずしも完全対応するものではなく、信頼度は低くなる。

微弱光を利用

こうした課題を解決するため、原子力機構が着目したのが「光ルミネッセンス(OSL)年代測定法」だ。

鉱物は自然放射線からのエネルギーを電子の形で蓄え、光を受けると電子を解放して微弱光(ルミネッセンス)を発する。この特性を利用し、鉱物のルミネッセンス強度から被ばく線量を推定。周囲の放射線量率で割ると被ばくからの経過時間、つまり、年代が求められる。太陽光はOSL年代をリセットするので、鉱物が堆積前に露光したと前提すれば、移動が終わって堆積し始めた形成年代が推定できる。現状では形成年代を直接測定できる手法は他になく、海成段丘の編年に極めて有効なのではと考えた。

形成史明らかに

実証のため、海成段丘がよく発達する紀伊半島で調査を行った。地域柄、火山灰は発見されず、段丘対比での編年に留まっている場所だ。標高約60㍍の段丘面から海底の名残「海成堆積物」を採取し、OSL年代測定を実施。すると、形成は約12万年前と示された。この結果は段丘対比による編年と整合的で、紀伊半島の海成段丘の形成史はより確かなものになった。

日本の海成段丘は隆起速度評価に有用にもかかわらず、いまだ形成史が不明確な地域も多い。今後は、各地の海成段丘にOSL年代測定を適用して形成史を明らかにしながら、日本の隆起速度評価の向上に貢献していきたい。