原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

142 原子力防災支えるリスク評価

掲載日:2025年10月21日

原子力安全・防災研究所 安全研究センター リスク評価・防災研究グループ
マネージャー 真辺 健太郎

日本原子力研究開発機構に入構後、18年間にわたり内部被ばく線量評価の研究に従事。2023年から現グループに所属し、リスク評価や原子力防災の分野にも取り組んでいる。研究成果が法令基準値の見直しや行政・学会の指針策定に結びつくことにやりがいを感じている。

安全追及、社会受容性高める

重要な電源

原子力発電はエネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現に貢献する重要な電源だ。一方、事故が起きれば、住民の健康や生活に深刻な影響を及ぼす。従って、再稼働や新たな原子力利用の推進にあたっては、万一の事態に備えた十分な防災体制と、科学的根拠に裏打ちしたリスク評価が欠かせない。

このため日本原子力研究開発機構では、原子力災害時リスクの定量的把握や緊急時計画の実効性向上を目指した安全研究を展開している。

新手法相次ぐ

リスク基盤研究領域では、1990年に開発した確率論的事故影響評価コード「OSCAAR」が屋台骨だ。このコードは、事故時に放出される放射性物質の大気中での挙動をさまざまな気象条件で計算し、被ばく線量を確率的に評価する。避難や屋内退避などの防護措置がどの程度被ばくを低減するか比較でき、防災計画の最適化に資する。昨年度は原子力施設立地16地域を対象に5種類の事故想定で被ばく低減確率を推定し、結果を公表した。

近年では、内部被ばく線量評価コード「IDCC」を開発中だ。ホールボディカウンターなどでの体内放射能測定の結果から、放射性核種の摂取量を推定する。被ばく線量を評価する機能も備え、事故時の内部被ばく線量評価にも適用できる。国際的な最新動向や知見も踏まえており、完成後は内部被ばくによる健康影響を防ぐ「防護基準値」の改定に利用される予定だ。

さらに、放射線被ばくによる健康リスクについて、公衆衛生分野で広く用いる「余命損失」や「障害調整生存年」といった指標を計算できるコード開発も進行中だ。放射線被ばくによる健康リスクを、放射線以外からのリスクと比較検討できるようになる。緊急時の意思決定に役立つと期待している。

住民の不安軽減

放射線安全・防災研究領域では、原子力施設の安全目標や緊急時計画の実効性評価基準に関する研究を展開している。原子力発電の社会的受容性を高めるには、「どれだけ安全であれば十分か」、「現実的に住民を防護することができるのか」など、安全価値を明確にする立場での研究が必要と考えるからだ。

科学的なリスク評価に基づく実効的な防災対策は、住民の不安を軽減し、原子力の社会的受容を支える基盤となる。今後も研究成果を社会に還元し、「安全・安心」の実現に貢献する研究開発に取り組んでいく。