134 荷電変換フォイル長寿命化
掲載日:2025年8月19日
大強度陽子ビームの要
加速器に極薄膜
厚さわずか2マイクロ㍍。大強度陽子加速器施設J―PARCの「3GeVシンクロトロン加速器(RCS)」に欠かせない要素「荷電変換フォイル」は、新聞紙30分の1ほどの薄膜だ。
RCSでは、リニアックで加速した負水素イオンの塊をフォイルに衝突させ、正水素イオン(陽子)に換えることで大強度の陽子ビームを実現している。加速器といえば巨大な電磁石や高周波空洞などの重厚長大な機器を連想することが多いかもしれない。だが、この極薄い薄膜がなければ陽子ビームはRCSで加速できない。ビームの電荷を負から正に変換する荷電変換フォイルはRCSの生命線で、そこが私が魅力を感じている点だ。
製作方法を改善
その役割から、加速器運転中は常にビームにさらされ劣化は進行する。大強度陽子ビームを安定加速するには、それに耐えることができる長寿命な荷電変換フォイルが不可欠となる。そのため、製作改善に取り組んだ。
荷電変換フォイルそのものは、真空中で炭素棒電極間にアーク放電を起こし、基板上に炭素を堆積させて作る。2マイクロ㍍の厚みを安定形成させるため、これまでは炭素棒電極に微量の異元素を添加した特殊材を使っていた。そこで、基板の表面処理を改良。安価な純炭素材でも必要な厚みを安定して作製できるようになった。
さらに、炭素棒電極の太さの組み合わせ方次第で、ビーム耐久性が著しく変化することが分かった。これで適切な電極径を選択すればフォイルの長寿命化達成が可能となった。本手法については現在、特許を出願中だ。
医療分野に応用
一連の技術は医療分野への応用の可能性が視野に入る。
医療用ラジオアイソトープ(RI)製造やがん治療の医療照射で使う加速器の一つに、サイクロトロンがある。RIの生成効率の向上や治療時間短縮による患者負担軽減のため、近年はサイクロトロンのビームの大電流化が求められている。これに応えようと、サイクロトロンは荷電変換フォイルを用いたビーム取り出しが主流となっているが、ここでもフォイル寿命が課題となってきた。
長寿命化した荷電変換フォイルをこれら加速器に展開できれば、長期間にわたる安定的なビーム供給が実現できる。J―PARCでの大強度陽子ビーム実現のため技術開発してきた荷電変換フォイルだが、より身近な医療分野での社会実装化も積極的に進めていきたい。

