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原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

128 固液界面の流動誘起「熱的な力」を分析

掲載日:2025年7月1日

原子力科学研究所 先端基礎研究センター 先端理論物理研究グループ
研究員 藪中 俊介

京都大学大学院物理学・宇宙物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。専門は非平衡物理学、ソフトマター物理学、統計物理学。近年は表面の関わる相転移ダイナミクス、繰り込み群による相転移の基礎理論の研究を行なっている。これまで見つかっていない新しい相転移現象の理論的予言、原子力機構の実験設備を用いての検証を目指している。

物質分離への応用視野

基礎こその難問

温度は最も身近な物理量の一つだ。火にかけたやかんの水、型に流す融けた金属など、同じ状態でも温度は一様ではない状況は数多ある。物質に温度勾配をかけると熱流が生じるが、それに加え、勾配と平行方向に物質輸送が起こることが分かっている。毛細管や多孔膜に封入した液体に温度勾配をかけた際、流体の流動が観測できるのはその一例だ。しかし、物質内部にどのような力が働いて輸送現象が生じるのか、いまだ明確な説明はない。

説明を困難にしている一因は、温度勾配による「熱的な力」が固体と液体の接する「固液界面」に生じる点にある。この時の界面の性質を理解することは、境界の影響が無視できる場合の液体あるいは固体の性質に比べはるかに難しい。ノーベル物理学賞受賞者ヴォルフガング・パウリは「固体は神が創りたもうたが、表面(界面)は悪魔が創った」との言葉を遺したほどだ。

そこで日本原子力研究開発機構では、温度勾配によって固液界面で起きる流動の理論的予測に取り組み、液中の物質分離の制御に関する新たな可能性を見いだした。

温度勾配を活用

今回は2つの容器を十分に長い細管でつなぎ、相分離が起こり始める臨界点近くの2成分流体(1相状態)を封入した場合を設定(図)。容器内の組成と圧力は臨界点の値に、温度はわずかに異なるようにした。すると、細管の固液界面では2成分の片方が選択的に吸着されて層を形成。層の厚さは臨界点近くで増大することが先行研究で分かっている。

我々の理論研究の結果、吸着層内部では温度を下げた(上げた)時に相分離が起こるかに応じて、温度勾配と同じ(反対の)向きの「熱的な力」が生じた。そして、この力によって2成分流体の温度勾配と同じ(反対の)向きの質量流が誘起された。

また、2成分は異なる速度で細管を流れることから、温度勾配を用いて2成分を分離できることも示された。

微小空間制御へ

今回は臨界点近くの2成分流体という限られた範囲だが、「熱的な力」の詳細な性質を理論的予言できたのは大変興味深く、実験的検証が今後の課題だ。また近年、レーザー照射などで微小・微細に温度勾配を作り出せるようになっている。原子力分野でも廃棄物分離は重要なテーマだ。その方向での貢献のためにも、本研究成果を基に、微小スケールでの物質の新たな分離技術を開発していければと考えている。