126 「奇妙な形」のセレン原子核
掲載日:2025年6月17日
電子・光子測定技術で発見
多くは変形
物質の構成単位である原子は原子核と電子でできている。日本原子力研究開発機構では原子核の構造解析も研究テーマの一つにしており、今回は、奇妙な形の原子核の存在を発見したので紹介したい。
実は、原子核が球形の形をとることは珍しく、多くの場合は変形したまま存在する。こうした原子核の形を詳細に調べることで、陽子と中性子を結びつける基本的な力を理解し、また、原子核の内部構造を知ることができる。すると原子核の反応や崩壊過程を正確に記述できるようになり、例えば、天体での元素合成の解明につながるのだ。ちなみに原子力エネルギー利用の基礎となる核分裂は、原子核が極端に変形し、ちぎれる過程に起きる現象だ。
さて、原子核は陽子と中性子の組み合わせで構成され、原子核の形も陽子と中性子の数で変化する。特に、安定な原子核から中性子数(N)と陽子数(Z)が等しいN=Zの不安定原子核に向かうと、興味深い現象が起こることが知られている。
寿命1時間
我々は、34個の陽子と36個の中性子から構成されるセレン原子核(Se―70、寿命1時間)の形状を調べることにした。
加速器から供給されるイオンビームを用い、核反応でSe―70を生成し、原子核に回転運動を与えた。回転エネルギーに対応してたくさんのエネルギー準位が形成されるが、これらの準位の間隔は原子核の形状情報を持つ。いわば手がかりだ。
回転運動は徐々にエネルギーを失ってやがて止まる。この際に放出する電子や光子(ガンマ線)を高分解能の半導体検出器で検出し、エネルギー準位を決定した。
特異構造を反映
この結果、Se―70は3軸の長さが異なるユニークな形をしていることが分かった。図に例示したように、鉛(Pb―208)のような球形の原子核は、3つのどの方向から見ても円形だ(図(a))。レモン型に変形したウラン(U―238)は1つの軸が長く、この軸から観察したときだけ円形に見える(b)。
しかしSe―70は、どの角度から見ても輪郭は円形にならない(c)。
球形の原子核は重力や静電気のような単純な半径方向の力で支配されるが、Se―70のようなエキゾチックな形状は、特異な内部構造によって出現する。今回、電子線分光装置を独自開発したことで得た発見は、この構造を支配する核力を理解する上で重要なものとなる。

