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研究者紹介

半導体スイッチ電源の確立を目的とした特性インピーダンスのマッチング手法の開発

原子力科学研究部門 J-PARCセンター
加速器ディビジョン 加速器第二セクション
研究主幹 高柳 智弘

利用期間が定められている研究施設では、装置の故障や停止が少ない安定性と信頼性に優れた高い稼働率が求められます。故障で停止した場合には、直ぐに復旧ができるように予備品を確保しておくこと、運転装置は長寿命かつ低ランニングコストを確立することが重要な課題です。J-PARC加速器施設では、大電力変換機器に放電管のスイッチを使用していますが、環境問題などから製造中止が見込まれています。施設の安定した運用を継続するためには、代替機の開発が不可欠です。

代替機には、安定性と長寿命に優れたパワー半導体の利用が必須ですが、従来のパワー半導体では性能が不足しています。そこで、新たに開発されている高耐圧・低損失の特性に優れた次世代パワー半導体を活用します。しかし、次世代パワー半導体の性能を活かす基盤技術の開発が遅れており、放電管スイッチの代替機の開発はあまり進んでいません。

私が提案した『次世代半導体を用いた新しいモジュール型スイッチの開発』の課題が平成28年度の科研費に採択され、パワー半導体を用いた放射対称型のスイッチ回路を開発しました(図1)。本スイッチ回路は、大電流の出力用に並列多重回路を構築する場合に、パルス性能に影響する回路インピーダンスの均一化と、スイッチングの低ノイズ化を同時に実現することができます。さらに、このスイッチ回路の基板を多段に直列接続することで(図2)、代替機に求められる40kV以上の超高電圧の出力が原理的に可能となりました。実用化には、出力波形に生じる歪みの改善や、高電圧出力時の放電の抑制が課題として残りました。波形歪みの原因は、電力伝送用の導体電位に依存する回路インピーダンスと、同軸型導体の半径に依存する特性インピーダンスのミスマッチです。

そこで私は、一般的によく使われている、特性インピーダンスが一定の真っ直ぐな棒状導体に代わり、積層した回路基板の各位置において、異なる回路インピーダンスにマッチングできる円錐型導体の採用を考案しました(図2)。本研究では、棒状導体と円錐型導体を製作し、出力波形歪みの比較評価をしました。その結果、円錐型導体は想定通りに波形の歪みを抑制し、さらには、立ち上がり時間が高速化するパルス性能の向上も確認することができました。

高電圧出力機器に生じる放電の対策にも取り組みました。放電は機器を劣化させるため故障の原因となります。高電圧が印加される円錐型導体の絶縁碍子には、耐圧と耐食に優れ原理的に劣化が生じない無機物質のセラミックス筒を採用することにしました。しかし、放電が起きると出力波形にノイズが重畳するため、放電そのものの低減についても検討しました。放電は、金属と絶縁体の空隙に電界が集中して発生します。そこで、セラミックス碍子の表面にNiメッキを施し、さらに、接触子でメッキ部と各導体を同電位化します。放電に影響を及ぼす空隙が物理的に無くなり、影響しない空気層だけが残ります(図3)。また、セラミックスは焼結で成型するため製作可能な長さに制限があります。高電圧出力用にスイッチ回路を高く積み上げた場合、長くなる伝送導体に対応する絶縁筒碍子が必要になります。そこで、碍子の長尺化は短いユニットによる連結で実施することとし、連結はすり合わせジョイント工法とします。絶縁劣化は生じないが加工が難しいセラミックス絶縁筒碍子に対し、このような空隙の無効化と同電位化及びユニット連結工法の適用を着想しました。本研究では、ユニット碍子を2つ製作し(図4)、想定通りに同電位化と連結が可能であることを確認しました。

萌芽研究開発制度の活用により、半導体スイッチ電源の実現に必要な特性インピーダンスのマッチング手法の確立と、絶縁筒碍子を製作することができました。さらに、本研究の過程で着想した『高電圧印加時のコロナフリーを実現する新しい絶縁筒の開発』の課題が令和3年度の科研費に採択されました。絶縁油を使わず、システム構造だけで放電を低減できる新しい絶縁手法の確立に取り組んでいます。次世代パワー半導体を用いた半導体スイッチ電源は、低炭素・省エネ社会の実現に必要な装置です。本研究成果を発展させ、革新的な半導体スイッチ電源の開発に努めて参ります。

参考文献

[1] T. Takayanagi et al., “Development of a new modular switch using a next-generation semiconductor”, IOP Conf. Series: Journal of Physics: Conf. Series 1067, 082019 (2018)

[2] T. Takayanagi et al., “Development of low inductance circuit for radially symmetric circuit”, IOP Conf. Series: Journal of Physics: Conf. Series 1350, 012186 (2019)

研究者インタビュー一覧

● 原子力科学研究部門 J-PARCセンター 加速器ディビジョン 加速器第二セクション 研究主幹 高柳 智弘
● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター 界面反応場研究グループ 南川 卓也
● 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター 熱流動技術開発グループ 上澤 伸一郎
● 福島研究開発部門 廃炉環境国際共同研究センター 広域モニタリング調査研究グループ 佐々木 美雪
● 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ オルランディ リカルド
● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター ナノスケール構造機能材料科学研究グループ 保田 諭
● J-PARCセンター 加速器ディジョン 加速器第三セクション 原田 寛之
● 原子力基礎工学研究センター 性能高度化技術開発グループ 鈴木 恵理子
● 原子力科学研究部門 物質科学研究センター 階層構造研究グループ 関根 由莉奈
● 原子力科学研究所 バックエンド技術部 放射性廃棄物管理第1課 桑原 彬
● 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 環境監視課 藤田 博喜
● 東濃地科学センター 地層科学研究部 年代測定技術開発グループ 藤田 奈津子
● 原子力科学研究所 放射線管理部 放射線計測技術課 西野 翔
● 先端基礎研究センター スピンーエネルギー変換科学研究グループ 松尾 衛
● 原子力基礎工学研究センター 放射化学研究グループ 熊谷 友多
● 大洗研究開発センター 安全管理部環境監視線量計測課 山田 純也
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