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研究者紹介

配位高分子の微量イオントリガー型構造変化を利用した元素センサー

原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター
界面反応場化学研究グループ 
南川 卓也

有害金属による汚染は世界中で問題となっており、飲料水を汚染物質から守ることは、現在の社会では必須の技術である。中でも鉛による汚染は良く知られており、世界では広範囲な鉛中毒の影響が懸念されている。1しかし、鉛の検出や分離は非常に難しいことが課題であった。有害元素の除去方法には様々な手法があるが、大掛かりな設備が必要ないため、現在ではよく吸着剤(活性炭やゼオライト等)が良く用いられる。

本研究では、細孔のサイズをナノレベルで微調整を可能にする、配位高分子(Metal organic framework:MOF)という配位子と金属からなるジャングルジム構造を持った物質群を用い元素除去剤を開発している(図1)。このジャングルジム状の構造は、金属と配位子からなる細孔を持っている。このランタノイド種のホスト金属のサイズを調整することで、0.1Å以下のオーダーこれまでにないサイズを微調整された細孔をシリーズでそろえることに成功している。この細孔を利用すれば、様々な元素を他の元素とのサイズの違いで分離可能であり、細孔の大きさを作り変えることによりイオンの選択性が変わるため、様々な種類の元素分離に有効である。2今回は、特に鉛イオンの分離について紹介する。

このMOFの中でも、テルビウムを用いたもの(terbium oxalate frameworks:TOF)をPb2+, Cd2+, Mn2+, Co2+, Ni2+, Cu2+, Na+, K+, Mg2+, Ca2+などを含んだ金属の混合液に浸漬したところ、鉛、カルシウム、カドミウムの順に選択性があることが明らかとなった。これらの金属のイオン半径は、0.65-1.38 Å であり、これらの中でもイオン半径が大きい2価イオンから順に、鉛(イオン半径1.19 Å)、カルシウム(イオン半径1.00 Å)、カドミウム(イオン半径0.95 Å)が順に選択的に除去できており、ゼオライトと比べてイオン選択性が高いことも明らかにした。このように鉛を選択的に吸着できる材料は少ないが、適切なホスト金属を選ぶことで、鉛だけを非常に選択的に吸着できる材料を作ることができた。3

TOF を用いて、鉛の吸着実験を行った結果、鉛の吸着容量は276 mg g−1 であり、一般的な吸着剤であるゼオライト等と比べても非常に大きな吸着容量を持っていることが示された。また、このTOFに吸着した鉛は、塩化アンモニウム溶液に浸漬することで鉛を分離することが可能であり、図2に示すようなに、鉛だけを選択的に分離して、鉛にオンされた水を浄化するとともに、TOFに吸着した鉛を回収することもできる材料であることが示された。3このように、新たに開発したTOFは水中の鉛浄化に非常に優れた性能を持つ。同時にTOFはテルビウム金属による発光を示すことがわかっている。これを利用して、普段は目で見ることのできない鉛を選択的に吸着して集め、これがTOFの発光を妨げることで、鉛がその水に含まれていたかどうかも検出することができることが分かった(図2)。

以上のように、新たに鉛の吸着剤を配位高分子によって合成することで、これまでにない鉛吸着剤を作り、また同時に目に見えないことで危険な鉛イオンの中毒を未然に予防できるような新たな吸着剤の開発に成功した。今回の鉛除去や検出技術には、原子力で培った元素分離回収や元素検出の技術を、一般利用できるように応用したものである。

本来このような原子力の技術は、特定の施設外に汚染物質を漏洩しないために高度に発展してきたものである。しかし、現代では様々な有害元素による汚染もあり、それらを除去する技術も求められている。また、使用された有益な金属を回収し、資源を確保するような技術の開発も求められている。私は原子力で発展した技術をこのような社会の課題に対して実際に応用していくことで、このような資源問題や環境問題を解決する技術となるだけでなく、原子力の汚染除去技術もまた磨きがかけられると考えて研究を進めています。このような研究分野をまたぐ研究は、まだまだ萌芽の段階であり、一般に広く認められたものではないため、今回のような研究資金を使い、必要な研究を進めることが出来たことに深く感謝します。

参考文献

  1. The Toxic Truth: Children’s Exposure to Pb Pollution Undermines a Generation of Future Potential (UNICEF report, UNICEF and Pure Earth 2020) https://www.unicef.org/sites/default/files/2020-07/The-toxic-truth-children%E2%80%99s-exposure-to-Pb-pollution-2020.pdf
  2. T. Nankawa, M. Roseinsky, D. Stewart, A. Katsoulidis. (2017), Compound, Synthesis Method Thereof, and Separation and Reco.very Agent Thereof (U.S. Patent application number 15/680,397)
  3. T. Nankawa, Y. Sekine, T. Yamada, Ion-selective adsorption of lead by a two-dimensional terbium oxalate framework, Bull. Chem. Soc. Jpn. submitted.

研究者インタビュー一覧

● 原子力科学研究部門 J-PARCセンター 加速器ディビジョン 加速器第二セクション 研究主幹 高柳 智弘
● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター 界面反応場研究グループ 南川 卓也
● 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター 熱流動技術開発グループ 上澤 伸一郎
● 福島研究開発部門 廃炉環境国際共同研究センター 広域モニタリング調査研究グループ 佐々木 美雪
● 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ オルランディ リカルド
● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター ナノスケール構造機能材料科学研究グループ 保田 諭
● J-PARCセンター 加速器ディジョン 加速器第三セクション 原田 寛之
● 原子力基礎工学研究センター 性能高度化技術開発グループ 鈴木 恵理子
● 原子力科学研究部門 物質科学研究センター 階層構造研究グループ 関根 由莉奈
● 原子力科学研究所 バックエンド技術部 放射性廃棄物管理第1課 桑原 彬
● 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 環境監視課 藤田 博喜
● 東濃地科学センター 地層科学研究部 年代測定技術開発グループ 藤田 奈津子
● 原子力科学研究所 放射線管理部 放射線計測技術課 西野 翔
● 先端基礎研究センター スピンーエネルギー変換科学研究グループ 松尾 衛
● 原子力基礎工学研究センター 放射化学研究グループ 熊谷 友多
● 大洗研究開発センター 安全管理部環境監視線量計測課 山田 純也
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