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研究者紹介

気泡崩壊現象を利用した飛散微粒子の革新的除去技術の開発

原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター 熱流動技術開発グループ
上澤 伸一郎

福島第一原子力発電所の廃炉工程において、放射性飛散微粒子の発生する可能性が指摘されており、その閉じ込め管理が課題となっています。閉じ込めに必要な排気系における放射性飛散微粒子の除去方法としては、既存の排気設備と同様に繊維フィルタなどが用いられると考えられます。しかしながら、燃料デブリ切断・取り出し時など、飛散微粒子が高濃度に発生する環境下では、繊維フィルタの目詰まりにより、交換頻度が増大することが予想され、メンテナンス作業の負担や放射性廃棄物の増加を招くことが想定されます。

そこで私は、従来にない飛散微粒子除去技術として、気泡と流体の物理現象を利用したメンテナンスフリーの飛散微粒子除去技術を考案しました。本技術は、気泡と流体の物理現象のひとつである気泡崩壊現象を利用した除去技術です。気泡崩壊現象とは、縮小拡大管内において液中の気泡が瞬時に縮小崩壊し、微細な気泡に変化する現象です。これは以前より知られている気泡と流体の現象ですが、現象解明のための実験研究が進められているものの、未だその全貌は明らかにされておらず、工学的な応用はこれまでなされていませんでした。私は、この気泡崩壊現象における一連の気泡挙動に着目し、①気泡の収縮・微細化による気液界面の変形、②気泡微細化による単位体積当たりの気液接触面積の大幅な増加、③微細気泡による流れの撹拌、④気泡微細化による気泡の滞留時間(液中に気泡が存在する時間)の長期化が、飛散微粒子の気体から液体への移行を促進して、効果的に気体の微粒子を除去できるのはないかと考えました。縮小拡大管には液体を流すと気体の吸引を自然に起こす性質もあることから、液体の供給源が別にあればその他の動力は不要です。このため高放射線環境下での使用も期待できます。また、空気清浄機のような繊維フィルタを用いていないことから、フィルタの交換が不要なメンテナンスフリーの装置であるとともに、使用済みフィルタのような廃棄物が発生しないため、環境負荷を抑えた装置となります。

本技術開発では、縮小拡大管を用いた気泡崩壊による微粒子除去試験装置を製作し、気泡崩壊現象の発生の確認を行いました。次に気泡崩壊現象の有用性を確認するため、燃料デブリ取り出し時に発生すると考えられる微粒子を想定した粒子除去性能評価試験を実施しました。最後に性能評価試験結果を踏まえ、粒子除去総量を増やすための縮小拡大管の最適設計について検討しました。

気泡崩壊現象を確認するため、10万分の1秒の撮影が可能なハイスピードビデオカメラで縮小拡大管内の気泡挙動を撮影しました。撮影の結果、時刻経過とともに気泡が縮小し、微細化する様子が本試験装置でも確認できました。また、別のカメラによるより詳細な撮影で、気泡崩壊現象により1 mm以下の微細気泡が多数生成していることを確認しました。さらに、縮小拡大管下流における微細気泡による流動攪拌やタンク内での気泡微細化による気泡の滞留時間の長期化を確認し、想定していた物理現象の全てを確認することができました。

粒子除去性能評価試験では、微粒子の飛散・除去において重要な因子である質量密度に着目し、本試験では廃炉作業を想定した、JIS試験用粉体Ⅰ-11種(3000 kg/m3、コンクリートの質量密度と同程度)、SUS316(炉内構造物相当)を用いました。また、比較的除去が難しいとされる低質量密度の粒子を想定して、オイルミスト(826 kg/m3)を用いた試験も実施しました。性能評価試験より、本試験で用いた全ての粒子について有意な除去効果があることが確認できました。特に、JIS試験用粉体Ⅰ-11種とSUS316に対しては、代表的な高性能エアフィルタのひとつであるHEPAフィルタ(99.97%以上の粒子捕集率)以上の性能をもつことが明らかになりました。さらに、比較的除去が困難なオイルミストに対しても、HEPAフィルタと同程度の除去性能を確認することができました。

本研究では、粒子除去総量を増やすための縮小拡大管の最適設計や流動条件についても検討しました。微粒子除去総量を増やすためには、縮小拡大管で起こる気体の自然吸引量を増やす必要があります。そこで気体の自動吸引量に影響を与えると考えられる縮小拡大管の形状について様々な形状を作製して比較試験を実施することにより、最適な形状を明らかにしました。また、液体の流量が自動吸引量に与える影響についても検討したところ、液流量を増やすことにより、より多くの気体吸引量が得られることがわかりました。現在、これらの知見は実用化に向けた装置改良に生かされています。

このように萌芽研究開発制度により、メンテナンスフリーかつ環境負荷の低い新たな飛散微粒子除去技術を開発することができました。本技術は、一般的な化学物質・粉塵の処理工程にも適用が可能な汎用性が高い技術であることから、特許を出願しています(特願2019-162820)。今後の展開としては、廃炉作業での利用に向けた装置改良を進めていくとともに、一般的な化学物質・粉塵の処理等も含めた産業利活用に向けた企業との連携を進める予定です。また、本技術特有の物理現象(気泡の収縮・崩壊による気液界面の変形、微細化による気液接触面積の増加、液体の撹拌、気泡滞留時間の長期化)の粒子除去への寄与の評価、更なる効率化の検討、有害ガスの浄化についても検討を進めていく予定です。

研究者インタビュー一覧

● 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター 熱流動技術開発グループ 上澤 伸一郎
● 福島研究開発部門 廃炉環境国際共同研究センター 広域モニタリング調査研究グループ 佐々木 美雪
● 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ オルランディ リカルド
● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター ナノスケール構造機能材料科学研究グループ 保田 諭
● J-PARCセンター 加速器ディジョン 加速器第三セクション 原田 寛之
● 原子力基礎工学研究センター 性能高度化技術開発グループ 鈴木 恵理子
● 原子力科学研究部門 物質科学研究センター 階層構造研究グループ 関根 由莉奈
● 原子力科学研究所 バックエンド技術部 放射性廃棄物管理第1課 桑原 彬
● 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 環境監視課 藤田 博喜
● 東濃地科学センター 地層科学研究部 年代測定技術開発グループ 藤田 奈津子
● 原子力科学研究所 放射線管理部 放射線計測技術課 西野 翔
● 先端基礎研究センター スピンーエネルギー変換科学研究グループ 松尾 衛
● 原子力基礎工学研究センター 放射化学研究グループ 熊谷 友多
● 大洗研究開発センター 安全管理部環境監視線量計測課 山田 純也
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