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研究者紹介

アパタイトを用いた放射性ストロンチウムイオン吸着材料の開発

原子力科学研究部門 物質科学研究センター 階層構造研究グループ 関根由莉奈

物質科学研究センターでは、中性子や放射光による高度計測技術を活用して、原子力分野での物質・材料科学の発展を目指した研究を行なっています。福島第一原発事故以降、放射性物質の安全な除去および拡散防止は未だに重要の課題の一つです。なかでも、ストロンチウム-90(90Sr)は地下水や海水に多く含まれるカルシウムイオンとの区別が困難であることなどから有用な除去、拡散防止法の確立について未だに発展の余地が残されています。90Srは、ウランやプルトニウムの核分裂に伴って数%生成し、28.8年の半減期を持ちβ線を放出します。90Srが体内に取り込まれた場合、骨を構成するアパタイト中のカルシウムイオンとイオン半径が極めて近いことから骨に容易に蓄積されることが知られており、長期間にわたる内部被曝を引き起こす可能性の高い物質です。福島第一原発事故以前にもチェルノブイリ事故や核実験等により90Srは環境中に放出されています。このような背景から、90Srに対する徹底した除去、拡散防止は重要です。核種が環境中に放出された場合、大規模での除染や拡散防止が必要になるため、安価で高い供給力を持つ除染材料が求められます。

本研究では、歯や骨の主成分である“ヒドロキシアパタイト”という材料に着目しました。ヒドロキシアパタイトは主にリン酸とカルシウムから構成される結晶性無機物質であり、骨などの硬組織の主要な構成成分ですが人工的に化学合成することも可能です。以前より、ストロンチウムイオン(Sr2+)はヒドロキシアパタイトの表面への吸着、もしくは内部のカルシウムイオンとの交換反応により取り込まれることが知られています。このヒドロキシアパタイトを用いて、その化学組成や構造を制御することにより90Srの吸着に優れた実用化に適した吸着材料の開発を行なってきました。

ヒドロキシアパタイトは、化学量論的に次のような化学組成(Ca10(PO4)6(OH)2, Ca/P = 1.67)で表すことが出来ますが、カルシウムとリンの比率が異なる場合や、他のイオンを取り込んでもある程度構造を保持することが知られています。しかしながら、そのような組成の変化と吸着特性などの物性との相関は今まで知られていませんでした。そこで、本研究では先ず化学量論値を有するアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2, Ca/P = 1.67)とCaが 欠損したアパタイト(Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x (OH)2-x, Ca/P = 1.38) を用いて、原子力機構が有する放射光施設のビームラインを始めとした計測機器を活用して構造解析と吸着物性評価を行うことにより、ヒドロキシアパタイトのナノ構造と吸着性能の相関を明らかにすることを目的として研究を行いました。結果として、Caが欠損したヒドロキシアパタイトは通常のアパタイトよりもストロンチウムに対して選択的な吸着性を示し、福島第一原発の汚染水に含まれる濃度のカルシウムが存在する条件においても高いストロンチウム吸着効率を示しました。放射光を用いた構造評価により、Caが欠損することでアパタイト材料中にストロンチウムのイオン半径に適した吸着サイトが多く形成することを示唆する結果を得ることに成功しました。さらに、組成変化させたアパタイトがストロンチウムのみならず、鉛やカドミウム等の有害重金属に対しても高い吸着性を示すことを明らかにしました。本研究内容は、論文や学会においても発表しており、特許も出願済みです。現在、この知見を活かして、実際に実用化可能な材料開発を行なっています。

本制度により、将来、除染、廃炉措置、環境保全等に有効に活用出来る可能性の高い、斬新で挑戦的な研究・開発の萌芽が育まれました。現時点では実用化に至っていませんが、実際に現場で役立つ材料を確立するために鋭意研究開発を行なっております。


図1.ヒドロキシアパタイトにおけるストロンチウムイオンの吸着機構例

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