研究者紹介

モニタリングポストを用いた核種別線量評価手法の開発
大洗研究開発センター 安全管理部環境監視線量計測課
山田 純也
福島第一原子力発電所事故のように、環境中にヨウ素やセシウムなどの放射性核種が大気中に放出された場合、放射性核種は、風にのって空気中を移動しながら、地面などに沈着していきます。沈着した放射性核種は、主に外部被ばくの原因となる一方、空気中に含まれる放射性核種は、呼吸により体内に取り込まれた場合、内部被ばくを引き起こします。放射性核種を吸入したことによる内部被ばくは、空気中に含まれる放射性核種の濃度が分かれば、計算により線量を評価することができます。現在、空気中の放射性核種の濃度を把握する方法として、吸引ポンプを使って専用のフィルタに放射性核種を捕集後、放射線測定室でフィルタを分析する手法(フィルタ法)が一般的です。フィルタ法は、専用の資機材や人員の確保が必要となる他、分析結果を得るまで比較的時間がかかるため、簡便さや迅速性の観点から一刻を争う緊急時の運用には適していないと考えられます。
そこで、私たちはモニタリングポストと呼ばれる空間の線量率を常時監視している設備に着目しました。モニタリングポストは、自動連続的な測定が可能な他、原子力関連施設周辺を中心に全国的に数多く設置されており、測定地点数の面でも優位性があります。
しかしながら、モニタリングポストの測定データから、空気中の放射性核種の濃度を推定する手法についての先行研究はありませんでした。そこで、皆様より頂きました寄附金を活用して、モニタリングポストを用いた手法の開発に向けた研究を開始しました。
原子力事故時には多種類の放射性核種の放出が想定されます。まず、甲状腺に集積し、内部被ばくを考える上で重要となるヨウ素131という放射性核種に対象を絞って研究を進めることにしました。
考案した手法(モニタ法)と手法の妥当性を検証するまでの流れを図1に示します。モニタ法は、モニタリングポストで測定されるデータの内、波高分布と呼ばれるデータを解析し、空気中に存在するヨウ素131に起因する計測値を抽出します。抽出した計測値に、予めシミュレーション計算により算出しておいた濃度換算係数を掛け算することで、空気中のヨウ素131の濃度の推定値を求めます。
モニタ法が空気中のヨウ素131濃度を本当に推定できるのか、実際に確かめる必要があります。そこで、福島第一原子力発電所事故時に大洗研究開発センターのモニタリングポストで観測されたデータを解析しました。図2は、モニタ法とフィルタ法の平成23年3月中の茨城地区における空気中のヨウ素131濃度を比較した結果です。比較の結果、モニタ法はフィルタ法に対して1/3~3倍の範囲で一致することを確認しました。今後は、実用化に向けて更なる解析を進めるとともに、セシウムなど他の核種への適用を視野に入れて研究を進めていきたいと考えています。
研究者インタビュー一覧
- ● 原子力科学研究部門 J-PARCセンター 加速器ディビジョン 加速器第二セクション 研究主幹 高柳 智弘
- ● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター 界面反応場研究グループ 南川 卓也
- ● 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター 熱流動技術開発グループ 上澤 伸一郎
- ● 福島研究開発部門 廃炉環境国際共同研究センター 広域モニタリング調査研究グループ 佐々木 美雪
- ● 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ オルランディ リカルド
- ● 原子力科学研究所 先端基礎研究センター ナノスケール構造機能材料科学研究グループ 保田 諭
- ● J-PARCセンター 加速器ディジョン 加速器第三セクション 原田 寛之
- ● 原子力基礎工学研究センター 性能高度化技術開発グループ 鈴木 恵理子
- ● 原子力科学研究部門 物質科学研究センター 階層構造研究グループ 関根 由莉奈
- ● 原子力科学研究所 バックエンド技術部 放射性廃棄物管理第1課 桑原 彬
- ● 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 環境監視課 藤田 博喜
- ● 東濃地科学センター 地層科学研究部 年代測定技術開発グループ 藤田 奈津子
- ● 原子力科学研究所 放射線管理部 放射線計測技術課 西野 翔
- ● 先端基礎研究センター スピンーエネルギー変換科学研究グループ 松尾 衛
- ● 原子力基礎工学研究センター 放射化学研究グループ 熊谷 友多
- ● 大洗研究開発センター 安全管理部環境監視線量計測課 山田 純也