我々の住む大地の深部は、過去にマグマが固まることで生じた岩石から構成される。特に花崗岩の量が圧倒的に多いが、地下深部には光が届かず光合成が起こらないため、地底生命は花崗岩の化学成分で生育する必要がある。花崗岩は水と反応すると水素を発生する鉄分が、他のマグマから形成する岩石と比べると少ないため、花崗岩には生態系を育むのに十分なエネルギー源が存在しないと考えられてきた。
東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授らの研究グループは、日本原子力研究開発機構、産業技術総合研究所、名古屋大学、北九州市立大学、茨城高専、海洋研究開発機構、カリフォルニア大学バークレー校との共同研究によって、大型地下研究施設を有する岐阜県の瑞浪超深地層研究所(注5)で、深度300メートルの地下水を地下坑道から採取し(図1)、地下微生物の生態系を調査した。その結果、花崗岩深部でマグマ由来のメタンに依存した微生物生態系が存在することを明らかにした。
今回の発見は、光合成由来のエネルギー源に依存しない生態系が広大な地下空間に存在し、マグマ由来のメタンをエネルギー源とした巨大なバイオマスが、地底に存在する可能性を示すものである。また、地底深部において普遍的に存在するマグマ由来のメタンが、微生物の硫酸呼吸(注6)で酸化されており、その過程で硫化水素を生成することから、放射性核種の移動を抑制する地下水水質が形成されていることも示された。従って地底生命の代謝活動により、高レベル放射性廃棄物地層処分の安全性が高められると期待される。
光合成により生産された有機物と酸素に満ちた地上とは異なり、地底は生物に必要な栄養素が欠乏しているため生命の存在しない「死の世界」と考えられてきた。一方、マグマから形成される岩石は地底の土台を構成し、岩石中には鉄分が多く含まれる場合、鉄分と水が反応して水素が発生し、水素をエネルギー源とした化学合成に基づく地底生態系が存在する説も提唱されている。しかし、その実態については不明な点が多く、地底深部の大部分を占める鉄分に乏しい花崗岩に、光合成由来のエネルギーが表層から届かない場合は、微生物生態系は存在しないと考えられてきた。
本研究グループは、瑞浪超深地層研究所の地下深部の花崗岩から、地下水を採取して化学分析を行った。その結果、光合成由来の有機物がほとんど含まれないにも関わらず、硫酸呼吸や放射性元素のウランで呼吸する微生物が生息していることを明らかにした[1, 2]。本研究グループは、さらに地下水中に生息する微生物の種類と硫酸で呼吸するためのエネルギー源を特定するために、微生物の全ゲノム解析(注7)を実施した。その結果、メタンをエネルギー源とする微生物が主要な生態系の構成種であり、メタンを酸化するために硫酸で呼吸し、硫化水素を生成していることも明らかとなった。メタンの安定同位体(注8)から、メタンは花崗岩を形成したマグマに含まれていたもので、生態系は光合成由来のエネルギー源に依存していないと判断される。
花崗岩は光合成生物が誕生する35億年以前の地球にも豊富に存在しており、地球初期の表層と現在の花崗岩の地下深部は、微生物の生息環境が類似していると推測される。本研究成果は、光合成由来のエネルギー源がなくても、花崗岩中の化学成分のみで生命活動が持続されることを示した点にあり、このことは花崗岩地下深部に適応した生命は太古の姿のまま進化せずに現在に至る可能性を示唆している。瑞浪超深地層研究所の微生物生態系には、共通祖先に近縁な微生物が生息することが本研究グループの研究により明らかにされている[3]。共通祖先に近縁な微生物のゲノム中の遺伝子は、それらのほとんどが機能不明なため、地底での生態は全くわかっていない。地上は地底と大きく環境が異なるため、地上に回収して培養することもできないため、今後岩盤中に栄養を加えて地底で培養を行い、謎につつまれた地底での生態と進化を明らかにする予定である。
[1] Suzuki et al. PLos One, id. 0113063, 2014
[2] Suzuki et al. Scientific Reports, DOI: 10.1038/srep22701
[3] Hug et al. Nature Microbiology, DOI: 10.1038/nmicrobial16048
雑誌名:「ISME Journal」
論文タイトル:Ecological and genomic profiling of anaerobic methane-oxidizing archaea in a deep granitic environment
著者:Kohei Ino, Alex W. Hernsdorf, Uta Konno, Mariko Kouduka, Katsunori Yanagawa, Shingo Kato, Michinari Sunamura, Akinari Hirota, Yoko S. Togo, Kazumasa Ito, Akari Fukuda, Teruki Iwatsuki, Takashi Mizuno, Daisuke D. Komatsu, Urumu Tsunogai, Toyoho Ishimura, Yuki Amano, Brian C. Thomas, Jillian F. Banfield, Yohey Suzuki