超深地層研究所計画
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坑道掘削時に坑道周囲の高水圧湧水を抑制する技術を開発
ポイント(上付き数字は用語解説)
- 瑞浪超深地層研究所の坑道掘削時に、坑道周囲の高水圧の地下水湧水を抑制するため、セメント溶液などを岩盤に注入するグラウチング1)-3)の技術開発を進めてきた。
- 深度500mまでの研究坑道を掘削する間に、様々な材料(普通ポルトランドセメント4)あるいは超微粒子セメント5)を水に溶かした材料や、セメントより浸透性に優れた溶液型材料である活性シリカコロイド6))を用いてグラウチングを試行した。
- 深度500m水平坑道(水深400m相当の高水圧下)の比較的湧水が多い区間(坑道延長約16m)で坑道掘削前後にグラウチング(プレグラウチング2)及びポストグラウチング3))を行い、グラウチングを実施しない場合の予測値に対して、湧水量を約100分の1まで低減できた。
- ポストグラウチングでは、活性シリカコロイドの使用と複合動的注入7)が効果的であった。
概要
瑞浪超深地層研究所において、研究坑道掘削時の湧水抑制のため、プレグラウチング及びポストグラウチングを実施しました(研究坑道掘削工事施工者:清水・鹿島・前田JV)。
その際、湧水量の予測にグラウチング効果を考慮できる理論式を用いることにより、目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定しました。さらに、岩盤の透水性に合せてグラウチングに用いる材料を使い分け、高水圧下において湧水抑制の目標値を達成できるグラウチング技術を開発しました。
深度500m水平坑道では、プレグラウチングを実施し坑道を掘削した後、比較的湧水量が多い区間(坑道延長約16m)において、さらなる湧水抑制技術の試行として、その外側にポストグラウチングを実施しました。その結果、同区間の湧水量は、グラウチングを実施しない場合の予測値に対して約100分の1まで低減できました。ポストグラウチングでは、活性シリカコロイドの使用と複合動的注入が効果的であることを確認しました。
内容
瑞浪超深地層研究所における研究坑道掘削では、坑道掘削前に実施した先行ボーリング調査により換気立坑掘削時に多量の湧水の発生が懸念され、深度200mから深度500mまでの研究坑道を掘削する間に、湧水抑制対策としてグラウチングを実施してきました。
その際、湧水量の予測にグラウチングの効果を考慮できる理論式を用いることにより、目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定しました。さらに、岩盤の透水性に合わせてグラウチングに用いる様々な材料(普通ポルトランドセメントあるいは超微粒子セメントを水に溶かした材料や、セメントより浸透性に優れた溶液型グラウト材料である活性シリカコロイド)の使い分けにより、深度500mまでの高水圧下(水深400m相当)において、湧水抑制の目標を達成できるプレグラウチング技術を開発しました。
理論式を用いて湧水抑制の目標を設定し、注入範囲ならびに材料を設計してグラウチングを実施した結果、概ね予測に合った効果が得られたことから、目標設定から設計、施工に至る一連の手法は簡便であり有用性が高いことを提示することができました。これらの成果は、様々な地下空洞の施工への適用が可能であり、成果を広く展開できると考えられます。
深度500m研究アクセス南坑道では、プレグラウチングを実施して坑道を掘削した後、比較的湧水量が多い区間(約16m)において、さらなる湧水抑制技術の試行として、その外側の範囲を対象としてポストグラウチングを実施しました(図1, 2)。その結果、対象区間の湧水量は、グラウチングを実施しない場合の予測値(1,380m3/日)に対して、プレグラウチング実施後は約30分の1(50m3/日)となりました。その後実施したポストグラウチングにより、50m3/日から15m3/日となり、グラウチングを実施しない場合に対して、湧水量を約100分の1まで低減できました(図3)。
また、ポストグラウチングでは、活性シリカコロイドの使用と複合動的注入の適用が効果的であることが確認できました。
用語解説
- 1) グラウチング
- 亀裂性岩盤を対象とした場合は、岩盤の亀裂(水の通りみち)にセメントなどの溶液を注入することで水を流れにくくし、坑道へ流入する水(湧水)を抑制すること。
- 2) プレグラウチング
- 坑道掘削に先立ち実施するグラウチング。
- 3) ポストグラウチング
- 坑道掘削の後に実施するグラウチング。
- 4) 普通ポルトランドセメント
- 土木・建築工事において使用されている、もっとも一般的なセメント。
- 5) 超微粒子セメント
- 普通ポルトランドセメントを微粒子になるように粉砕したセメント。
- 超微粒子セメントの最大粒子径は、普通ポルトランドセメントの約10分の1(普通ポルトランドセメントの最大粒子径:約100μm(1μm:1×10-6メートル)、超微粒子セメントの最大粒子径:約10μm)。
- 6) 活性シリカコロイド
- 水ガラス(溶液型材料。従来から使用されており、セメントより浸透性に優れている。)からアルカリを除去するとともに、シリカの粒径を大きくすることで耐久性を向上させたコロイド溶液。国内では砂質地盤の補強などで実績がある材料。活性シリカコロイドの最大粒子径は、超微粒子セメントの約1,000分の1(活性シリカコロイドの最大粒子径:約10~20nm(1nm:1×10-9メートル)。
- 7) 複合動的注入工法
- 注入ポンプに設置した動的周波数設定器により、脈動により注入材料の到達範囲を広げる効果のある長波と分散効果のある短波を組み合せた複合波を伝播させる工法(清水建設(株)・ライト工業(株)の特許技術)。この複合波により、通常の定圧による注入工法や短波または長波のみによる動的注入工法よりも高い浸透効果が発揮されることが実証されている。
参考文献
- 見掛信一郎,池田幸喜,松井裕哉,辻正邦,西垣誠, 高圧湧水下におけるプレグラウチングとポストグラウチングを併用した湧水抑制効果の評価,土木学会論文集C,74巻,1号,pp.76-91, 2018.