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超深地層研究所計画

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トピックス

土岐花崗岩体のアパタイトフィッション・トラック年代の空間分布:東アジア大陸縁辺部に定置した深成岩体の上昇速度

ポイント
  • 土岐花崗岩体内のアパタイトフィッション・トラック(AFT:Apatite Fission Track)年代の空間分布を把握した。
  • AERs(Age-Elevation Relationships)とAFT年代の逆解析(HeFTy解析)による土岐花崗岩体の冷却史・上昇史を解明し,土岐花崗岩体を取り巻く東濃地域では50Ma以降0.16㎜/年を超える削剥を被っていないことを明らかとした1)
概要

花崗岩体の熱履歴の解明は,花崗岩体が貫入・定置した大陸地殻の変遷を把握する上で重要となります。岐阜県東濃地方に分布する土岐花崗岩体は,白亜紀後期に東アジア大陸縁辺部に定置した深成岩体であり,採取された33試料のAFT年代は,52.1 ± 2.8~37.1 ± 3.6 Ma(Maは100万年を示す)の値を示します。AFT年代は岩体の温度が60~120℃程度であったころの年代値を示すため,このAFT年代の空間分布は低温条件での花崗岩の3次元的な冷却史の解明に利用できます。土岐花崗岩体中の年代分布は,上方で古く下方で若い年代を示します。これは上方領域では下方領域より早く冷えた(60~120℃程度に温度が下がった)ことを示すことから,この時代には土岐花崗岩体が上昇していたこと示唆しています。

AERs(後述)とAFT年代とHeFTy解析の結果,土岐花崗岩体では,1) 50~40Maの比較的速い上昇(平均の上昇速度は1年あたり0.16±0.04 mm),2) 40Ma以降の比較的遅い上昇(平均の上昇速度は1年あたり0.16±0.04 mm/年以下),3) 30~20Ma以前に地表に露出したこと,などが明らかとなりました。今から2000~1500万年前に日本海が拡大して現在の日本列島の形が形成されましたが,日本海拡大前の日本列島が大陸縁辺部に位置した時代だけでなく,西南日本孤に位置した日本海拡大以降の時期においても,土岐花崗岩体を含む東濃地域は,1年あたり0.1~0.2 mmを超える上昇は経験しておらず,削剥速度はより遅いと考えられます。

内容

花崗岩体の形成に関する熱履歴の解明は,花崗岩が貫入・定置した大陸地殻の発達過程の解明への手掛かりになります。特にAFT年代は比較的低温(60-120℃)になった時期を記録していることから, AFT年代は花崗岩体が比較的冷えてきた段階における熱履歴を解明でき,かつこの情報から花崗岩体の上昇履歴を推定できます。 そこで,本研究では①土岐花崗岩体のAFT年代の空間分布の把握,②AERsを用いた岩体上昇速度の決定,および③HeFTy解析を実施しました。

①AFT年代の空間分布の把握

土岐花崗岩体中に掘削された11本のボーリングコアから採取した33試料は,52.1 ± 2.8~37.1 ± 3.6 Maの年代を示します。土岐花崗岩体は,全体として上方で古く,下方で若い年代分布を示します(図1)。これは上方領域では下方領域より早くアパタイトのフィッショントラック年代値が示す温度(60~120℃程度)に温度が低下したことを意味し,岩体の上昇を強く示唆するものです。一方,この傾向が不明瞭な岩体の東部(DH-10,11,13)では、局所的な地下水の流入などにより温度条件が変化していた可能性があります。

②AERsを用いた岩体上昇速度の決定

AERsとは,AFT年代とその試料の標高(深度)のプロットから得られる近似線の傾きを用い,上昇速度とそれが生じた年代を推定する手法です2)。AFT年代全33データの内,局所的な影響を被ったことが推定されるDH-10,11,13の7データを除いた26データのAERsから上昇速度を推定しました。その結果,土岐花崗岩体は50~40Maの期間において,0.16±0.04 mm/年という上昇速度であることを明らかにしました(図2)。

③HeFTy解析による花崗岩体の温度‐時間履歴

HeFTy解析とは,岩体(試料)の熱史(温度‐時間履歴曲線;t-T path)を推定するための逆解析手法です3)。土岐花崗岩体内の3領域(岩体の中央領域,東側領域,西側領域)に対してHeFTy解析を実施しました。得られた温度‐時間履歴曲線を図3に示します。温度‐時間履歴曲線に基づくと,岩体を通して大規模な再加熱は生じなかったと考えられました。また,約40Maを境に,急冷(上昇速度が速い)から徐冷(上昇速度が遅い)へ変化し,その後,30~20Maで現在の温度と等しくなりました。つまり,この30~20Ma以前に岩体が地表に露出したと解釈することができます。

土岐花崗岩体のAFT年代の空間分布図
図1 土岐花崗岩体のAFT年代の空間分布
古い年代値(寒色)を有し,下方で若い年代(暖色)を示す。
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土岐花崗岩体のAFT年代から取得されるAERsを示す画像
図2 土岐花崗岩体のAFT年代から取得されるAERs
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HeFTy解析から導出した温度-時間履歴曲線の図
図3 HeFTy解析から導出した温度-時間履歴曲線(t-T path)
A:岩体の中央領域,B:岩体の東側領域,C:岩体の西側領域,AFT PAZ:AFT年代の閉鎖温度,ZFT PAZ:ジルコンフィッション・トラック年代の閉鎖温度
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参考文献