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超深地層研究所計画

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トピックス

花崗岩中の物質移動に寄与する空隙に関する研究

ポイント
  • 瑞浪超深地層研究所の研究坑道から採取した花崗岩の健岩部(肉眼では変質が認められない部分)を調べた結果、花崗岩の主要な構成鉱物の一つである斜長石の中に空隙が発達し、この空隙が地下水中の溶存物質の拡散経路(マトリクス拡散の経路)となることを確認した。
  • 斜長石中の空隙は、花崗岩体の形成時に生じたと考えられ,国内の他の花崗岩の健岩部でも物質移動の遅延機能が期待できる可能性があることを見出した。
概要

地下水中の溶存物質は,割れ目や断層周辺などのマクロスケールの構造を移行しつつ,割れ目周辺の母岩中のマイクロクラックなどの顕微鏡等で確認できるマイクロスケールの空隙を介して拡散(マトリクス拡散)することが知られています1)。このマトリクス拡散は,物質の移動を遅延させることから,地下環境中における物質移動現象を理解する上で重要な現象です。花崗岩中では,過去に割れ目周辺母岩が選択的に熱水変質を被った場合,岩盤中に空隙が発達し,マトリクス拡散が生じやすいことが知られています例えば2)。しかし,土岐花崗岩を例にとると,現在の湧水を伴う割れ目の周辺母岩の約6割以上は健岩部(ここでは,変質を被る岩盤の対義語として肉眼観察で変質を被っていないと判断される部分を ‘健岩部’と示す)であり3),健岩部における知見が重要となると考えられます。そこで,本研究では瑞浪超深地層研究所の深度300m及び500mの研究坑道で採取した花崗岩試料を用いて水の中の溶存物質が岩石中を拡散していく現象を調べる試験(拡散試験),マトリクス拡散に寄与するような空隙の分布やその特徴に関する観察を実施しました。

その結果,健岩部においても、花崗岩の主要な構成鉱物の一つである斜長石の中に空隙が形成・発達していること、また、この空隙の中を選択的に物質が拡散していることを把握しました。斜長石中の空隙は、花崗岩体の形成時に生じたものと推定され、我が国の他の花崗岩にも存在すると考えられることから,我が国の花崗岩は、健岩部においてもマトリクス拡散による物質の移動の遅延が期待できる可能性があると考えられます4)

内容

瑞浪超深地層研究所の地下300m及び500mの研究坑道から花崗岩の健岩部の試料(拡散試験用の岩石ブロック試料:1試料、詳細な観察用のボーリングコア試料:11試料)を採取し(図1)、物質の拡散試験や顕微鏡を用いた詳細な観察を行い、マトリクス拡散に寄与するような空隙の存在やその特徴について調査しました。

岩石ブロック試料を用いた拡散試験の結果、花崗岩の健岩部においても、マトリクス拡散が起きることが確認されました(図2)。また、拡散した物質(蛍光染料;ウラニン)は、花崗岩の主要な構成鉱物の一つである斜長石に選択的に分布することが分かりました(図2の右側)。一方、ボーリングコアの健岩部から採取した試料を顕微鏡で詳細に観察した結果、全ての試料で特に斜長石の中に空隙が観察され(図3)、この斜長石中の微小空隙がマトリクス拡散の経路として機能していることが明らかとなりました。

斜長石の中の空隙は、地下深くでマグマが冷却・固化した際に生じた液体と斜長石が反応して粘土鉱物が形成されたこと(以下、初生的変質と示す)に伴って形成されたと考えられます。また、このような初生的変質は国内の他の花崗岩でも確認されていることから、我が国に分布する花崗岩中には同様の空隙があることが推察されます。すなわち,我が国の花崗岩で初生的な変質によって斜長石内部の空隙が形成されることが一般的な性質であれば,岩体の多くを占める健岩部においてもマトリクス拡散に伴う物質移動の遅延効果が期待できる可能性があると考えられます。

瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウト図と花崗岩試料の採取個所
図1.瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウト(左側)と花崗岩試料の採取個所(右側)
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岩石ブロック試料を用いた拡散試験の結果の画像
図2.岩石ブロック試料を用いた拡散試験の結果
(Aに示す物質の添加孔に物質(蛍光染料)を添加し、拡散試験を行いました。B及びCに示す黄緑色の部分に拡散した物質(蛍光染料)が分布しています。この箇所は、主に岩石中の斜長石であることがわかります(C)。)
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ボーリングコアから採取した花崗岩試料と斜長石の中の微小空隙の分布の例の画像
図3.ボーリングコアから採取した花崗岩試料(左)と斜長石の中の微小空隙の分布(右)の例
(左に示す花崗岩試料の四角の部分を偏光顕微鏡と実体蛍光顕微鏡で観察すると右のように見ることができます。右の写真で緑色の部分は、微小空隙の分布を示します。)
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参考文献