超深地層研究所計画の市有地における
地表からの調査予測研究段階の概要
-地質環境の調査手法や予測手法の確立に向けた研究開発-
平成14年1月21日
核燃料サイクル開発機構
東濃地科学センター


 超深地層研究所計画は、市有地において、地表からのボーリングなどにより地質環境を予測する研究(第1段階)を行った後、研究坑道を建設しながら、地表から予測した結果を地下の調査で確認します(第2段階)。さらに、掘削された研究坑道を利用して研究者が直接地下に入り詳しく研究を行います(第3段階)。
 第1段階では、地表からのボーリングなどで地下を調べ、その結果を基に地質環境のモデル化を行い、地層の分布などの地質環境などを予測します。この予測手法の信頼性を、研究坑道を建設しながらの地下の調査(第2段階)で確認し、地質環境の調査手法や予測手法の確立を図ります。また、予測された地質環境に基づいて、第2段階での研究の具体化や研究坑道の詳細な設計を行います。
 市有地の地下には、正馬様用地に分布する花崗岩と同一の花崗岩が連続していることが推測されます。正馬様用地では、これまでに、深い4本のボーリングなどを実施し、調査技術の開発と、地質環境の情報およびそれに基づく地質環境のモデルなどの研究成果が得られています。
 そこで、市有地では、正馬様用地での研究成果を活用して、ボーリングなどの第1段階の研究を合理化して行います。


1.研究の概要

 超深地層研究所計画の地表からの調査予測研究段階(第1段階)では、深部の地質環境の調査手法や予測手法の確立に向け、次のような調査を行います。
・地表に表れた岩の性質や断層などを調べる調査(以下、地質調査といいます)
・降雨量や河川の流量などを測定して地下に浸み込む水の量を測定する調査(以下、表層水理調査といいます)
・電磁波や振動を地下に送り、これにより地下から発生する電磁波や地下で反射される振動を測定し、地下の様子を推定する調査(以下、地上物理探査といいます)
・ボーリング調査
 調査手法や予測手法を確立する上では、本来の地質環境の状態をできるだけ乱さずに正確に把握することが課題となります。
 これらの調査の結果に基づき地質環境のモデル化を行い、地層の分布などの地質環境を予測するとともに、研究坑道の建設が地質環境に与える影響を予測します。また、予測された地質環境に基づいて、第2段階で建設される立坑等の研究坑道の詳細な設計、第2段階の研究内容の具体化を行います。


2. 正馬様用地における現在までの研究成果
 東濃地域には、約7,000万年前頃にできた花崗岩(土岐花崗岩)が広く分布しており、これを基盤として、その上位を約2,000万年前頃にできた堆積岩(瑞浪層群)が覆い、さらにその上位を約500万年前頃にできたよく固まっていない(以下、未固結といいます)砂礫層(瀬戸層群)が覆っています。また、東西方向に伸びる月吉断層が存在しています(図1)。月吉断層は、土岐花崗岩および瑞浪層群を切っていますが、瀬戸層群には及んでいません。このことから、瀬戸層群ができた頃には、月吉断層の活動は終了していたと考えられます。
 本計画の第1段階においては、物理探査やボーリング調査などによって得られた結果を統合しながら、地質・地質構造、地下水の水理、地下水の地球化学、岩盤力学に関する地質環境のモデル化を進めています。これまでに行った主な調査内容は図2のとおりで、分野ごとの研究成果の概略を以下に示します。


1) 地質・地質構造に関する調査研究

 本計画以前に正馬様用地で掘削されていたボーリング孔(AN-1号孔:1,000 m、AN-3号孔:400 m)の情報や地形情報など、本計画の開始時点における情報だけを用いて正馬様用地における地質構造モデルを構築した場合には、基盤の土岐花崗岩とこれを覆う堆積岩との境界およびその直下の花崗岩風化部を識別することしかできませんでした。
 本計画では、地上物理探査、表層水理調査および深度700〜1,000 mのボーリング調査などを実施しました。本計画のボーリング調査では、これまで4孔(MIU-1、MIU-2、MIU-3、MIU-4号孔)を掘削し、地下の温度などの測定(以下、物理検層といいます)、岩のサンプルの観察、地下水の流れやすさを調べるための試験(以下、水理試験といいます)、力の強度などの試験および岩のサンプルを用いた室内試験などを行いました。
 その結果、正馬様用地の地下1,000 mまでについて、断層や割れ目の分布なども考慮した地質構造モデルを作ることができました。このモデルは、表層の未固結砂礫層である瀬戸層群、3層に区分される瑞浪層群の堆積岩層および基盤の土岐花崗岩体からなり、土岐花崗岩体は黒雲母花崗岩相の部分と優白質花崗岩相の部分からなっています。また、土岐花崗岩体の中で、最上部の風化部、上部の割れ目帯、月吉断層に伴う割れ目帯を地下水を透しやすい部分としました(図3)。

2) 地下水の水理に関する調査研究

 地下水の動きを解析する場合には、地下に浸透していく水の量を知る必要があります。そのため、表層水理調査行った結果、地下に浸透していく水の量は降水量全体の数%〜十数%程度と推定されました。また、ボーリング孔を利用して、土岐花崗岩の割れ目の少ない部分、水を透しやすい割れ目の多い部分および月吉断層部について、水の透しやすさや水圧などを計測しました。
 これらの調査によって得られた情報に基づき、水理地質構造モデルを作り、地下水の動きを解析しました。その結果、月吉断層が遮水帯として機能することや、研究坑道を掘削した場合には水を透しやすい割れ目の分布に応じ、不規則に水圧の低下する領域が発生することなどが解析でも確かめられました。

3) 地下水の地球化学に関する調査研究

 本研究では、地下水の採水にあたって、ボーリングで使用する掘削水が地下水サンプルにどの程度混入しているのか定量的に評価するため、あらかじめ掘削水に蛍光染料などを添加しておいて、地下水の採水時にその濃度および地下水の性質(酸化還元電位、溶存酸素濃度、pH、電気伝導度、水温など)を測定し、採取した地下水サンプルが真の地下水であることを評価しています。この方法により、当地域のように溶存成分濃度の低い地下水についても、その化学的な性質を精度よく測定することができ、地下水の動きとの関係などを検討することが可能となりました。
 土岐花崗岩中の地下水の化学的性質については、広域地下水流動研究によって、浅部(深度約300 m以浅)では中性かつ酸化性のCa2+-Na+-HCO3-型であるのに対し、深部にいくにつれて、弱アルカリ性かつ還元性のNa+-HCO3-型の地下水へと変化することがわかっています。本研究により、MIU-4号孔で地下水を採水し分析した結果でも、正馬様用地における土岐花崗岩中の地下水は、弱アルカリ性のNa+-HCO3-型であり、これまでの広域地下水流動研究の研究によって得られた研究結果と一致しています。

4) 岩盤力学に関する調査研究

 本計画においては、これまでボーリング孔を利用した岩盤などへの地圧などのかかり具合の測定や、採取した岩の強度などを測定してきました。その結果によれば、土岐花崗岩の岩盤としての性質(強度など)は、日本の花崗岩として平均的なものです。また、正馬様の地下では、割れ目の分布に対応して、深度300 m付近と深度700 m付近で岩盤の性質が変化していることが確認されています。
 一方、岩盤に働いている力に関しては、鉛直方向にかかる力と水平方向にかかる最小の力はいずれも土被り圧(その上位にある岩盤の荷重)とほぼ等しく、水平方向にかかる最大の力はその1.5〜2倍程度でした。水平方向の応力の値も、深度300 m付近と700 m付近を境に大きく変化しています。また、最大の力の方向は、地表付近では南北方向を示すのに対して、深度300 m以深では北西〜南東方向を示します。後者は、東濃地域にかかっている力の方向と大体一致しています。
 これらの測定結果に基づいて、土岐花崗岩体を岩盤の性質および地圧のかかり具合の異なる3つの領域(地表〜深度約300 m、深度約300〜700 m、深度約700〜1,000 m)に区分した岩盤力学モデルを作成しました。

5) 岩盤中の物質移動に関する調査研究

 ボーリング孔を利用した様々な調査や岩のサンプルの観察に基づき、水を透しやすい割れ目の分類を行いました。また、割れ目およびその付近の岩盤における化学的性質や鉱物の特性、岩石の空隙の構造および収着・拡散に関するデータを整備しました。

6) 調査技術・調査機器に関する研究

 上記の調査研究を通じて、物理探査の技術やボーリング孔を利用して岩盤などへの地圧などのかかり具合を調べる技術の整備を進めるとともに、深度1,000mまでのボーリング孔で使用できる水理試験装置および地下水の化学的性質を調べる機器の改良を行いました。

7) 深地層における工学技術に関する研究

 研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)ならびに研究坑道を利用した研究段階(第3段階)において実施すべき調査・研究項目について、国内外の先行事例などを参考にし、これまでの調査で得られた深部地質環境に関する情報を基に、研究坑道のレイアウトや施工計画を検討しました。


3. 市有地における今後の研究計画

 正馬様用地での研究成果を活用し、市有地では地表からの調査予測研究として次のような研究を計画しています。

1) 地質・地質構造に関する調査研究

 正馬様用地での調査研究を通じて蓄積された土岐花崗岩体に関する情報をもとにした地質構造モデルを出発点とし、市有地における調査研究の結果に基づいて、最終的に研究坑道周辺の地質の性質を表す地質構造モデルを構築します。
 そのため、正馬様用地等で適用性が確認された物理探査、ボーリング孔(浅層および深層)を利用した調査研究や岩のサンプルを用いた室内調査などを実施し、市有地における深度1,500 m程度までの地質の様子を把握します。

2) 地下水の水理に関する調査研究

 正馬様用地で整備した技術を活用し、市有地でボーリング孔における水理試験を行います。その結果を地質構造モデルに加えて、水理地質構造モデルを作ります。また、このモデルを用いて地下水の流れについての解析を行い、市有地における研究坑道掘削前の地下水の様子を予測します。また、研究坑道を掘削すると地下水の流れ方の変化(研究坑道への流入量、研究坑道周辺の地下水圧の変化など)を予測し、次段階以降の調査研究計画に反映します。

3) 地下水の地球化学に関する調査研究

 市有地におけるボーリング孔から地下水を採水して分析を行い、地下水の化学的な性質が場所によってどう違うのかを把握します。また、水と岩石の反応についての試験や解析などにより、地下水の水質を決める主要な反応が何であるかを調べ、場所による地下水の化学的な性質の違いとあわせて現有の地球化学モデル(水質がどのように決まるのかを表すモデル)の妥当性を確認します。さらに、酸化還元に関係する有機物ならびに微生物の種類や存在量などについても情報を取得します。

4) 岩盤の力学に関する調査研究

 岩のサンプルを用いた室内試験やボーリング孔を利用した力のかかり具合などを調べる試験など、正馬様用地で整備した試験方法を適用して、市有地における土岐花崗岩の強度などの性質や力のかかり具合、および割れ目面の性質を把握し、岩盤力学モデルを作ります。このモデルを用いて、研究坑道掘削前の状態を予測します。また、研究坑道の掘削に伴う坑道周辺の岩盤がどう変形するかや、力のかかり具合の変化、ならびに力の集中に伴う岩盤の損傷の範囲を予測します。これにより研究坑道の安定性の評価を行い、その結果を研究坑道の詳細設計や次段階以降の調査研究計画の策定に反映します。

5) 岩盤中の物質移動に関する調査研究

 土岐花崗岩中における物質の動きについての現象を把握するため、正馬様用地での基礎実験の結果を基に、岩のサンプルを用いた室内実験などを行います。それにより,水を透しやすい割れ目およびその付近の岩盤における化学的性質や鉱物の特性、岩石の空隙の構造および収着・拡散に関するデータを整備します。また、岩石中の微量な成分の分布を測定し、長期間にわたる物質の動きについての現象を把握します。

6) 調査技術・調査機器に関する研究

 正馬様用地等での調査研究を通じて整備した技術について,その適用性を確認しながら必要に応じて改良を図っていきます。また、地質環境の異なる様々な地域への適用を考慮し、これらの技術の適用条件や適用範囲などを明確にします。さらに、次段階以降において必要と考えられる調査技術・調査機器の開発を実施します。

7) 深地層における工学技術に関する研究

 これまでの研究成果に加え、市有地に関する地質環境の情報に基づいて、最終的に研究坑道の詳細レイアウトを決定するとともに、実際に適用する施工技術ならびに機器や設備を選定し、具体的な施工計画を策定します。

8) 研究成果の統合化

 市有地における地表から地下深部までの地質環境に関する情報や知見などについては、分野ごとに取りまとめを行うとともに、分野間における成果の関連ならびにそれらの間に矛盾がないことを確認します。これにより、適切な地質環境モデルを作り、地質環境を正確に把握できるようにします。また、構築した地質環境モデルを用いて、研究坑道掘削前の地質環境を予測します。
 地表からの調査研究に必要となる様々な技術について、それぞれ改良を図りつつ、その有効性を確認します。また、地質環境について評価すべき項目の重要度を把握するとともに、本計画を一つの例として、調査の種類・量や解析・評価の手法と結果の精度との関係を明らかにすることにより、地質環境の予測手法を整備していきます。

以 上
図1 東濃地域の地質と研究実施領域
図2 深部地質環境の調査・解析技術の開発を目的として正馬様用地で行われた調査の内容
図3 3次元地質構造モデル