燃料サイクルシステムとは
高速炉実証炉の燃料は、現在の原子力発電炉から排出された放射性廃棄物をリサイクルして製造します。
リサイクル(「再処理」といいます)では、放射性廃棄物の中から高速炉実証炉の燃料となる核物質(ウランとプルトニウムの混合物)を取り出し、これを燃料に適した形に加工して組み立てます(「燃料加工」といいます)。
この一連のリサイクルシステムのことを「燃料サイクルシステム」といいます。
加えて、高速炉には、従来の再処理では高レベル放射性廃液に移行する超ウラン元素(マイナーアクチノイド)も燃料として使用することができるという新たな利点があります。マイナーアクチノイドの中には、超長期間高い放射線と熱を出す核種が含まれていることから、ウラン・プルトニウムに加え、マイナーアクチノイドを高レベル放射性廃液から分離し、高速炉にて燃料として消費することで、最終処分する放射性廃棄物の量を低減し、質を向上することが期待されています。
このため、現行の原子力発電所や高速実証炉から排出される使用済燃料からのマイナーアクチノイドの分離や、これを用いた燃料やその加工方法についての検討を進めています。
→ 関連リンク
高速炉の燃料技術開発について, 日本原子力研究開発機構(令和6年5月10日)
高速炉実証炉の燃料
高速炉実証炉の燃料としては、「酸化物燃料」と「金属燃料」の2種類の燃料を検討しています。
2026年度末までに、それまでの研究開発の成果を踏まえ、高速炉実証炉の燃料技術の具体的な検討を行う計画です。
酸化物燃料
MOX燃料は、まず、使用済み燃料を再処理して得られた硝酸ウラニル・プルトニウム混合溶液、硝酸ウラニル溶液を混合した後、マイクロ波加熱脱硝により酸化物粉末とし、造粒して粉末
取扱性を改善し、成型、焼結することで燃料ペレットにします。その後、燃料ペレットを被覆管に詰めて密封して燃料棒とし、これらを束ねることで燃料集合体とします。
酸化物燃料は、ウラン、プルトニウムの混合酸化物を主成分とした燃料です。Mixed Oxide Fuelの英称から、「MOX燃料」とも称され、国内外の現行の原子力発電所における利用実績があります。
高速炉実証炉MOX燃料の実用化に向けては、中空ペレットの量産技術や検査技術の開発と実証が必要です。
また、放射性廃棄物の有害性低減のために、新たな技術として、マイナーアクチノイド(MA)を燃料に添加して、高速炉サイクル内に閉じ込めるMA含有MOX燃料の開発やMA抽出技術の検討を進めています。
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金属燃料
金属燃料は、ウラン、プルトニウム及びジルコニウムから成る合金を燃料とするもので、数パーセントまでのマイナーアクチノイドを添加することも可能です。1950~1960年代の米国及び英国における開発初期の高速炉にはウラン合金が燃料として利用されました。ウラン、プルトニウム及びジルコニウムから成る金属燃料は米国において数百本の照射試験実績があり、ウランとジルコニウムから成る金属燃料は米国で着工したNatrium炉で使用されることになっています。国内においては使用実績はありません。
使用済みの金属燃料は、電気分解することによって再処理することができ、ウランとプルトニウムは合金の形で陰極に集められますが、このとき、マイナーアクチノイドも一緒に陰極に集まります。こうして得られた合金を射出鋳造と呼ばれる方法で棒状に加工し、これを被覆管に詰めた燃料棒(燃料ピンともいいます)を束ねることで燃料集合体とします。この一連の技術は、米国を中心に開発されてきましたが、国内においても工学規模試験などが進められてきました。
高速炉実証炉金属燃料の実用化に向けては、必要な許認可対応に加えて、国内において金属燃料を製造し、再処理するための遠隔自動機器の開発が重要です。
酸化物燃料サイクルシステムの主要な開発課題
燃料製造技術の開発
酸化物燃料製造技術では、経済性向上のために燃料の高燃焼度化に対応する技術や、環境負荷低減のためにMAを燃料に添加するための技術が必要になります。
燃料の高燃焼度化については、比較的に径が太く・中央部が空洞となっているMOXペレット(「太径中空ペレット」といいます)の製造技術、および低O/M (重金属核種に対する酸素の数密度比)MOXペレットの製造技術の開発を行います。
太径中空ペレットは高線出力化とともに燃料の体積比を高めることで炉心内部の転換比※を向上させることができるという特徴を有していることから、運転サイクルの長期化(高稼働率)及び炉心全体の高燃焼度化を図る事ができ、燃料費削減に効果があります。
一方、高燃焼度化に伴い課題となる被覆管の腐食を防ぐためにO/M比を低く保ったMOXペレットが必要となります。
※ 原子炉の中で新しく作られる燃料原子の数と燃料として消費される燃料原子の数の比
長寿命炉心材料開発
燃料の高燃焼度化(取出平均燃焼度150GWd/t)と冷却材の高出口温度化(550℃)を両立する酸化物分散強化型(ODS)フェライト鋼製の燃料被覆管の開発を進めています。
これまでにODSフェライト鋼被覆管の基本的な製造技術を確立するとともに、高温強度データ取得を進め、世界最高レベルのクリープ強度を長時間維持することを実証しています。
現在は、実用化に向けた量産技術開発、基準類整備を進めており、「常陽」の運転再開後には照射試験を実施する計画です。
MA抽出技術の開発
放射性廃液に含まれるマイナーアクチノイドについては、
- マイナーアクチノイドと選択的に結合する抽出剤を使用した溶媒抽出法
- 抽出剤を含浸させた吸着材を使用した抽出クロマト法
- 溶媒抽出法と抽出クロマト法を組み合わせたハイブリッド法
等による分離技術の開発を進めており、いずれの方法についても実際の放射性廃液からマイナーアクチノイドを分離・回収することに成功しています。
今後は、実用化を念頭に、放射線環境下での長期運転等を考慮したプロセス・システム開発を実施し、分離条件の最適化や各方法の比較評価を進めていきます。
金属燃料燃料サイクルシステムの主要な開発課題
金属燃料製造技術の開発
ウラン-プルトニウム-ジルコニウム合金(燃料合金)の金属燃料の成型に用いられる射出鋳造技術については、国内での実規模試験や米国での遠隔操業の実績があります。
一方で、燃料合金と被覆管との隙間にナトリウムを充填する技術(ナトリウムボンディング)、射出鋳造設備や燃料ピン組立設備などの遠隔自動機器などについては、国内における開発・設置が重要となります。また、MOXから金属燃料を製造するための電解技術の開発も必要となります。現在、金属燃料製造技術の実用性や経済性を評価するため、実証炉用金属燃料製造施設の概念設計検討などを進めています。
乾式再処理技術の開発
使用済金属燃料の再処理には、溶融塩電解精製法と呼ばれる電気分解の一種が用いられます。この技術は酸化物燃料の再処理と異なり水溶液を使用しないため、乾式再処理と呼ばれています。
乾式再処理技術については、米国に実用実績があり、国内においても実規模の数分の一の工学規模の試験実績があります。しかし、核分裂生成物を含む放射性廃棄物の処理と処分の方法については、軽水炉燃料の再処理で出てくるガラス固化体とは異なるタイプの固化体(セラミック固化体と金属固化体)を製造することを想定しているため、これらの固化体の製造方法の確認や固化体の安定性に関するデータの拡充が必要です。また、主要な機器の国内開発、特に遠隔自動運転への対応が重要です。
現在、乾式再処理技術の実用性や経済性を評価するため、実証炉用金属燃料乾式再処理施設の概念設計などを進めるとともに、米国との共同研究を通じて乾式再処理技術開発動向の把握を進めています。
金属燃料の開発
ウラン-プルトニウム-ジルコニウム金属燃料の国内での使用実績はありませんが、米国では、照射データが得られており、現在、米国との共同研究を通じて、米国照射データの導入を進めています。
なお、実用炉に向けて、より高い被覆管温度や燃焼度を求める際には、照射試験の追加が必要になります。
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