第5回日米原子力研究開発協力シンポジウム(2021.11.24)

※基調講演以降、パネル討論までの様子をストリーミング再生でご覧いただけます。
個々の基調講演・発表につきましては、下記のハイパーリンクからもご覧いただけます。

2021年11月24日(米国時間:同月23日)に、当機構ワシントン事務所主催による「日米原子力研究開発協力シンポジウム」を開催しました。今年で5回目となる本シンポジウムは、新型コロナウイルス感染症の影響により、昨年のオンライン形式に続き、海外事務所主催イベントとしては初のハイブリッド形式となりました。

米国側からは、エネルギー省(DOE)、原子力規制委員会(NRC)等政府関係者、国立研究所等の専門家、企業等原子力産業関係者、日本側からは当機構役職員の他、政府関係者(在米日本国大使館、文部科学省、経済産業省)、日本及びワシントン駐在の電力、メーカー等の関係者等、現地ワシントン会場、オンラインを合わせ100名以上が参加しました。

冒頭挨拶として、児玉敏雄理事長(英文略歴 )から、昨年のオンライン形式に続き、今回ハイブリッド形式となった本シンポジウム開催に向けての関係者の協力への謝意とともに、国際的な脱炭素化の流れにおいて、原子力の果たす役割の重要性及び先進炉の研究・開発・実証、原子力安全研究における協力の重要性と今後の可能性、日米協力・協働の進展への期待が述べられました。

在米日本国大使館 塚田玉樹特命全権公使(英文略歴 )から、本件シンポジウム開催への祝意が表明されるとともに、岸田新政権下においても、エネルギー協力を含め、日米同盟に引き続き強くコミットしていること、両国のパートナーシップを通じて、イノベーション、気候変動、人的交流といった取組みを進めるとともに、先進原子力技術の開発・展開も重視していることが述べられました。また、今回のシンポジウムが第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で合意された内容を、その成果として示す最初の機会となるよう期待している旨が述べられました。さらに、2050年カーボンニュートラル達成に向けた政治・政策的なリーダーシップと着実かつ現実的なボトムアップアプローチの必要性を強調し、その過程で、先進炉(パネル1)及び安全研究(パネル2)分野における日米協力の更なる強化・推進につき期待が示されました。

米国エネルギー省(DOE)キャサリン・ハフ原子力担当筆頭次官補代理(英文略歴 )から、本件シンポジウム開催への祝意を述べた上で、バイデン政権は2050年カーボンニュートラル、2035年発電分野での脱炭素化にコミットしており、これらの目標を達成するためにも原子力が決定的に重要であること、この文脈でも日米協力を継続・強化していくこと、日米両国は民間を含め、多くの共通の利害を共有していること、小型モジュール炉(SMR)や先進炉をはじめ、当機構が原子力の各分野において取組みを進めていること、先進原子炉実証プログラム(Advanced Reactor Demonstration Program:ARDP)を含めバイデン政権や議会も諸般の官民連携プログラムを支援していること、多目的試験炉(VTR)は高速中性子による試験施設として重要であり、議会による2022年予算の配分を期待していることなどを説明しました。

当機構児玉理事長
塚田特命全権公使
DOEハフ筆頭次官補代理

基調講演では、米国原子力規制委員会(NRC)クリストファー・ハンソン委員長(英文略歴動画 )から、米国を含め、世界中で先進炉導入に向けた動きが高まりつつある中、NRCとしても許認可や規制の観点から準備を進めていること、日本は官民とも原子力安全の面で米国のみならず世界の原子力コミュニティと引き続き連携しており、また、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島事故」)から得られた教訓と経験を共有する努力を続けていることが述べられました。先進炉について、NRCは現在、審査中の2件(Oklo社のAurolaプロジェクト(アイダホ国立研究所(INL))、Kairos社のフッ化物溶融塩高温炉プロジェクト(オークリッジ国立研究所(ORNL))を進めるとともに、ARDPに係る支援も実施していること、特定の炉型に限定されない包括的な(technology inclusive)規制枠組み(10CFR Part 53)について様々な視点を踏まえつつ検討中であること、先進炉に関する緊急事態のための規制枠組み及び包括的環境影響声明をそれぞれ準備していることなどを紹介しました。さらに、先進炉だけでなく、核燃料サイクルやバリューチェーンも含めた規制の構築、人材確保・育成、国立研究所を含めた国際研究協力の必要性を指摘し、特に、高温工学試験研究炉(HTTR)やもんじゅ等、日本における非軽水炉の運転経験から学ぶところが多い旨述べました。最後に、将来の炉型に関する設計認証に係る規制枠組み構築についても日本を含め、各国との協力が重要である旨付言しました。

続いて、米国原子力エネルギー協会(NEI)マリア・コースニック理事長兼CEO(英文略歴 )から(ベリガン連邦プログラム・サプライヤー関係担当理事が代読、動画 )、現在、気候クライシスとも言える状況が生じており、対応への時間が失われつつあること、原子力はクリーンエネルギー移行において「解決策の一部」ではなく、「枢要な解決策」であることを述べ、COP26の成果、各国の基本的立場を概観しました。続いて、日米の電力事情に触れつつ、脱炭素化に向けたベースロードエネルギーとして原子力の位置づけを説明した上で、両国のパートナーシップが次世代原子力技術や官民連携の文脈を含め、ますます重要となりつつある旨強調しました。

さらに、文部科学省 嶋崎政一研究開発戦略官(核燃料サイクル・廃止措置担当)(英文略歴発表資料動画 )から、第六次エネルギー基本計画における原子力の位置づけ、核燃料サイクル、原子力技術及び人材育成の諸点に触れるとともに、同省がその研究開発・能力構築において果たす役割について述べました。続いて、当機構が有する常陽、もんじゅの現状を説明するとともに、多目的研究プラットフォームとしての常陽の潜在的な役割に期待を寄せつつ、当機構のHTTR、JRR-3がそれぞれ今年7月、2月に再稼働に至ったことを報告しました。また、福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた研究開発における当機構の役割、日米協力(当機構廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)と米サバンナリバー国立研究所(SRNL))を強調するとともに、CLADSがOECD/NEAのNESTフレームワーク(原子力の教育、技能、科学技術に関する枠組み)で廃止措置に向けた先進遠隔技術・ロボット工学(ARTERD)プロジェクトを主導していることについても言及しました。最後に、原子力イノベーションの一環として、未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC)の取組みを紹介しました。

最後に、経済産業省資源エネルギー庁 小林出国際資源エネルギー戦略統括調整官(英文略歴発表資料動画 )から、第六次エネルギー基本計画における原子力の扱いについて紹介するとともに、安全性など、個別の分野における原子力技術開発の潜在的なニーズについて言及しました。また、NEXIP(Nuclear Energy x Innovation Promotion)イニシアチブにおいて、財政支援、研究開発施設へのアクセス、人材育成を通じて革新的原子力技術開発の加速化が図られていること、NEXIPイニシアチブなどを通じて、同省が国際協力プロジェクトを含む様々な原子炉技術(SMR、高速炉、高温ガス炉)を支援していること、当機構は常陽やHTTRをはじめ、重要な試験施設を有していることなどが述べられました。財政支援の一例として、日米間におけるSMR開発協力(NuScale SMR、BWRX-300)の現状と見通しを説明しました。日米の高速炉開発協力については、VTRに関する協力覚書締結に続き、現在TerraPowerとの間でNatriumプロジェクトに関する協力を協議していることや、日本としての貢献が見込まれる分野について説明しました。

NRCハンソン委員長
NEIベリガン理事
(コースニック理事長兼CEOの代読)
文部科学省 嶋崎研究開発戦略官
経済産業省資源エネルギー庁
小林国際資源エネルギー戦略統括調整官

パネル討論1「先進原子炉実証プログラム(ARDP)とその後」では、冒頭、モデレーターを務めるウィリアム・マーチン元DOE副長官(英文略歴 )から、NRC委員長をはじめ本件シンポジウムが非常にハイレベルな参加者を得ていることは日米関係の重要性を示すものであること、同シンポジウムのメッセージとして「いますぐ取り組むべき(Do it now)」「(紙上での概念検討ではなく、実炉を)すぐに建設すべき(Build it now)」と言い表すことができる、脱炭素化のみならず国家安全保障の観点からも我々は挑戦を受ける立場であり、原子力に対する期待は世界的にも高まりつつあるところ、機は熟している旨述べました。また、イノベーションの観点を含め、次世代人材育成の必要性を訴えました。

高速炉・新型炉研究開発部門 上出英樹副部門長(英文略歴発表資料動画 )から、日本における高速炉サイクル開発の歴史に触れ、機器開発の例として、常陽 MK-Ⅲにおける中間熱交換器の交換を紹介しました。続いて、NEXIPイニシアチブ、日米民生用原子力研究開発ワーキンググループ(CNWG)の枠組みにおける活動、当機構による高速炉サイクル研究開発施設と活動、先進的設計評価・支援手法(AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法:ARKADIA)、 崩壊熱除去シミュレーション、ナトリウム試験装置(PLANDTL-2)の実験解析、大型ナトリウム試験施設(AtheNa)、常陽における中性子照射能力、大洗における照射後試験能力、原子力-再生可能エネルギー・ハイブリッドエネルギーシステム、HTTRの再稼働と今後の水素製造・熱利用試験計画、3Dプリンティング・セラミック燃料技術といった諸点について紹介しました。最後に、今後の協力の可能性として、米国のナトリウム冷却高速炉(SFR)に係るプロジェクト(VTR、Natrium炉)を指摘し、当機構としてそれぞれ優れた特徴を持つ設計支援ツールやインフラを有していること、また、今後のイノベーションにおける挑戦として、DX(デジタルトランスフォーメーション)の中での次世代エネルギーシステムにおける原子力の役割と3Dプリンティングによる先進核燃料製造の2点が挙げられる旨述べ、これらの分野における米側との更なる連携強化に期待を寄せました。

米国TerraPowerクリス・レヴェスク社長兼CEO(英文略歴発表資料動画 )から、冒頭、同社が開発を進めるNatrium炉の特性を紹介した上で、米国のARDPの狙い、官民連携の一環として、同社がARDPに採択されたことを述べました。続いて、Natrium炉がこれまでの概念を変えるような新たな原子力のあり方を示すものであることや再生可能エネルギーとの統合の面でのメリットについて触れつつ、Natrium施設の外観予定図を示し、これまで当機構大洗研究所を訪問したこと、当機構との協力を両機関で検討していることなどが紹介されました。

INLジェス・ジーン副所長(英文略歴発表資料動画 )から、米国内の国立研究所がARDPを通じて官民連携を支援している旨述べ、同研究所内の国家原子炉イノベーションセンター(NRIC)の目的・取組みを紹介しました。また、原子力イノベーション加速化ゲートウェイ(GAIN)を通じた財政支援、産業界との連携などに言及しました。続いて、INLにおける先進炉技術の研究開発に触れ、その目標や焦点(MARVELマイクロ炉など)を解説しました。さらに、核燃料、材料、測定、高度モデリング・シミュレーションの各分野におけるプログラムを挙げつつ、例として、三重被覆粒子燃料(TRISO)の性能検証に係る安全評価面の取組みを紹介しました。最後に、モデレーターからの質問に応じる形で、これらは日米協力の枠組みにおいても重要であり、特に脱炭素化や官民連携の文脈において極めて重要である旨述べました。

ORNLベンジャミン・ベツラー研究・試験炉物理グループリーダー(英文略歴発表資料動画 )から、Transformational Challenging Reactor(TCR)プログラム発足の背景として製造・計算科学の進展に触れ、その目的として積層造形(AM)と人工知能(AI)の応用があることを述べました。また、TCRで用いられている迅速な設計及び開発アプローチ、炉心設計の選考プロセス、安全性、フルスケール炉心モックアップの製造・組立・操作プロセスの概要を説明しました。最後に、TCRの利点として先進製造技術の応用があること、現在先進材料・製造技術(AMMT)プログラムへの移行が図られていること、新規製造技術の経済的応用に向けた先進認証アプローチを継続すること、先進製造技術を継続的に開発する以外に原子炉産業における応用可能性は広がらない旨述べました。

INLジーン副所長 マーチン元DOE副長官
当機構上出副部門長
TerraPowerレヴェスク社長兼CEO
ORNLベツラー・グループリーダー

パネル討論2「NRC-当機構間の原子力安全研究協力―福島事故からの教訓とその後」では、冒頭、モデレーターを務めるリチャード・メザーヴ元NRC委員長(英文略歴 )から、福島事故から我々は貴重な教訓を得たこと、今後とも、外部事象のリスク評価、緊急事態対応、関連機材・施設、広報活動、廃止措置のあり方など、引き続き事故から学び続ける必要がある旨述べました。

NRCレイモンド・ファーステノー原子力規制研究部長(英文略歴発表資料動画 )から、NRC及び同部の体制につき概観した上で、現行のOECD/NEAの下での当機構との協力プロジェクトを挙げつつ、さらに、高熱材料など、今後の潜在的な協力分野・共通の関心分野について述べました。また、シビアアクシデント、熱流動、原子炉動特性、福島事故の進展事象の解析に係る技術会合やワークショップにおける当機構からの貢献を紹介するとともに、先進燃料技術、先進原子力技術許認可、先進原子力技術研究、確率論的リスク評価(PRA)、工学・材料科学、運転期間の80年への再延長許認可の各分野におけるNRCの取組みを説明しました。最後に、軽水炉・SMR・非軽水炉の熱流動安全性をはじめ、今後当機構と協力し得る分野を複数示しました。

安全研究・防災支援部門 中村武彦副部門長(英文略歴発表資料動画 )から、同部門の役割について、福島事故後における文脈を踏まえつつ、研究テーマ、今後の方向性を説明しました。また、NRC-当機構間の協力の現状につき、原子力安全研究分野における両機関の協力覚書の概要、現行の同覚書が2022年末に期限を迎えることに言及し、NRCを引き続き重要なパートナーと位置づけ、外部事象、レベル3 PRA及び健康影響モデル、事故耐性燃料(ATF)の安全性評価など、今後の潜在的な協力事項を挙げました。また、大型格納容器試験装置CIGMA など、当機構が有する安全研究関連主要施設を紹介し、その特性について解説しました。原子炉安全性研究炉(NSSR)、OECD/NEA照射試験フレームワーク(FIDES)においてNSRRを用いて米国INLと協力して行う反応度事故模擬試験プログラム(HERA)、定常臨界実験装置(STACY)、当機構の原子力科学研究部門も一部を担当するATF研究開発事業、当機構の高速炉・新型炉研究開発部門が主導するHTTRの全冷却設備の機能喪失を模擬したOECD/NEAのLOFC(Loss Of Forced Cooling)計画といった国際共同研究にも触れました。最後に、今後のNRCとの協力分野として、シビアアクシデント研究などの協力継続、短期的には当機構の研究開発施設の利用など、また、軽水炉安全以外の事項として、HTTRを用いたHTGR安全研究を挙げるとともに、最近、途絶えているNRCと当機構との間の長期の人材派遣の再開を提案しました。

メザーヴ氏からは、日本が原子力を維持していくためには既存の原子炉の延長が必要であり、米国における規制の経験を共有することが有意義である旨発言がありました。

NRCファーステノー
原子力規制研究部長
メザーヴ元NRC委員長
当機構中村副部門長

その後の質疑応答では、Natrium炉とVTRプロジェクトの相互補完性や今後の見通し、官民連携の重要性等について活発な意見交換が行われました。

全体司会を務める
当機構内藤ワシントン事務所長

以上の議論を受け、アルゴンヌ国立研究所(ANL)ポール・ディックマン上級政策フェロー(英文略歴 )及びDOEダミアン・ペコ氏から、パネルでの議論を総括したのに続き、当機構の舟木健太郎理事(英文略歴 )から閉会挨拶として、本件シンポジウムが日米協力の継続、拡大の機会を提供し、更なる進展に向けたモメンタムを得たこと、原子力のイノベーションを支える観点から、①当機構の有する専門性と経験は民間にも提供できること、②技術支援機関(TSO)として新しい概念のためのルールづくりの上で豊富な経験を蓄積していること、③より多くの大学や研究機関と民間セクターや規制当局との橋渡しをする広範なプラットフォームを用意していること、これらを組み合わせることにより米国の相手機関との議論や協力をさらに推し進めていきたい旨を述べ、本シンポジウムを閉会しました。

ANLディックマン上級政策フェロー
DOEペコ氏
当機構舟木理事

昨年のオンライン形式に続き、ハイブリッド形式での初めての開催となりましたが、日米両国の原子力研究開発のキーパーソンの参加を得ることができ、日米両国の最近の動向を踏まえた中身の濃い議論が展開されました。当機構は、今後も、様々な機会を捉え、米国とのネットワーキングの拡大を図ってまいります。

ワシントン会場の様子