第4回日米原子力研究開発協力シンポジウム(2020.10.22)

※画面上の発表資料の表示に不具合があるほか、表示が見づらい場合は、
お手数ですが、以下のハイパーリンク「発表資料」をご覧ください。

2020年10月22日(米国時間:同月21日)に、当機構ワシントン事務所主催による「日米原子力研究開発協力シンポジウム」を開催しました。今年で4回目となる本シンポジウムは、新型コロナウイルス感染症の影響により、初めてウェビナー形式での開催となりました。

米国側からは、エネルギー省(DOE)、原子力規制委員会(NRC)等政府関係者、国立研究所等の専門家、企業等原子力産業関係者、日本側からは当機構役職員の他、政府関係者(在米日本国大使館、文部科学省、経済産業省)、日本及びワシントン駐在の電力、メーカー等の関係者等、計139名が参加しました。

冒頭挨拶として、当機構児玉理事長(英文略歴) から、初のウェビナー形式となった本シンポジウム開催に向けての関係者の協力への謝意とともに、国際的な脱炭素化の流れにおいて、原子力の果たす役割の重要性及び新型炉の研究、開発、実証における日米協力の更なる推進への期待が述べられました。

続いて在米日本大使館の塚田特命全権公使(英文略歴)から、新型コロナウイルスの感染拡大という制約の中でも、ウェビナー形式で本シンポジウムを開催することにより、多くの参加者が得られたことへの祝意が表明されるとともに、原子力分野での新型炉実証プログラム(ARDP)と多目的試験炉プログラム(VTR)が民間企業の関与によって大きな進捗を遂げていることが述べられました。また、来年3月で東京電力福島第一原子力発電所事故から10年を迎えることに言及しつつ、日米間の原子力協力拡大への更なる期待が述べられました。

DOEバランウォル原子力担当次官補(英文略歴)からは、原子力安全、廃止措置・廃棄物管理等、日米間の広範な協力に言及しつつ、最近、特に焦点が当てられている分野として、小型モジュール炉(SMR)と新型炉の分野が挙げられました。また、米国の現政権が原子力の推進に引き続きコミットしていること、新型炉分野における最近の動向としてARDP、VTRプログラムが紹介されました。

JAEA児玉理事長
塚田特命全権公使
DOEバランウォル原子力担当次官補

基調講演では、NRCハンソン委員(英文略歴)から、NRCは日本とのパートナーシップに強い関心を抱いていることが述べられ、協力の実績として、原子力安全や核セキュリティ分野における人材交流を含めた長年の相互協力、東京電力福島第一原子力発電所事故以降の原子力規制庁による原子炉監視プログラム(ROP)導入へのNRCの協力が挙げられました。また、新型炉安全に関するNRCの対応状況として、新型炉の許認可を効果的かつ効率的に実施していくための準備状況などが報告されました。

続いて、文部科学省 松浦原子力課長(英文略歴発表資料)から、原子力を取り巻く環境の厳しさと、その反面、脱炭素社会において原子力が担う主要な役割についての認識を示した後、米国との二国間原子力協力においては、日本がナトリウム冷却高速炉(SFR)及び高温工学試験炉(HTTR)の研究開発を通じて蓄積してきた新型炉技術を提供できると考えられること、一方で、そうした将来に向けた研究開発を継続していくことは喫緊の課題であること、廃止措置の着実な遂行とのバランスが重要となることなどが述べられました。

さらに、経済産業省 木原資源エネルギー庁国際資源エネルギー戦略統括調整官(英文略歴発表資料)から、第5次エネルギー基本計画において原子力に期待される役割、及びこれに基づく原子研究開発に関する6つの潜在的ニーズを示したのち、原子力イノベーション政策であるNEXIP(Nuclear Energy×Innovation Promotion)イニシアチブの概要、NEXIPを含む複数の新型炉技術開発プログラムにおける国際協力の概要、及びこれらプロジェクトにおいて当機構に期待する技術項目について述べられました。

NRCハンソン委員
文部科学省 松浦原子力課長
経済産業省 木原資源エネルギー庁
国際資源エネルギー戦略統括調整官

パネル討論は、マーチン元DOE副長官(英文略歴)がモデレーターを務め、「実証段階における新型炉技術に関する協力」をテーマとして行われました。最初に、NRCニー新型炉部長(英文略歴発表資料)から、NRCはこれまで原子力施設の安全な運用の面からその任務を果たしてきていることを述べた上で、建設・運転一括許可(COL)、10CFR Part53として新たな規制枠組みの適用等、新型炉を安全に導入、配備していくための戦略的政策について言及がありました。

続いて昨年8月、アイダホ国立研究所に設置されたNRIC(National Reactor Innovation Center)のファイナン センター長(英文略歴発表資料)から、同センターでDOEプロジェクトとして進められているARDPについて紹介がありました。この中で、2025年までの主たる2つの目標として、1)少なくとも2つの先進炉の実証を実現すること、2)DOEの国立研究所において技術革新と実証試験の準備をすることが報告され、このために3年間のハイレベル・マイルストーンが設定されていることが述べられました。また、2015年に設立されたGAIN(Gateway for Accelerated Innovation in Nuclear)と相補的に原子力産業を支援しており、1964年から30年間運転されたアイダホ国立研究所のEBR-IIを改修し、実証試験のテストベッドの事前概念設計が2020年9月に完了したとの報告がありました。さらに溶融塩熱物理試験(MSTEC)、マイクロ原子炉の応用研究、実証、評価プロジェクト(MARVEL)についての紹介もありました。

当機構高速炉・新型炉研究開発部門 國富副部門長(英文略歴発表資料)から、当機構が実施してきている高温ガス炉に係る研究開発の概要、気候変動への対応の観点から日本において高温ガス炉が果たす重要な役割について説明を行いました。また、2020年6月3日に、再稼働の前提となる安全審査の合格が原子力規制委員会で決まったことも紹介され、水素製造システムも組み合わせた高温ガス炉の研究開発の高度化に向け米国側の参加を呼び掛けました。

アルゴンヌ国立研究所 ログランス=リバス VTRプロジェクト事務局次長(英文略歴発表資料)から、DOEが進めているVTRプログラムについて紹介がありました。米国には現在高速中性子スペクトル領域の試験炉が存在しないが、2026年までに完成させるため、4つのマイルストーンを設定していることが報告され、中性子束(4 x 1015 n/cm2-s)などのパラメーターや、完成予想図、多目的な実験に対応する炉心設計予定図などが紹介されました。また、アイダホ国立研究所が中心となり、19の大学、10の企業、6つの研究所が共同して計画を進めていることが紹介されました。

当機構高速炉・新型炉研究開発部門 上出副部門長(英文略歴発表資料)から、当機構において開発したナトリウム冷却高速炉の現状に関し、常陽等の実験施設を使用した照射試験による研究開発について説明を行いました。原子力イノベーションを支える革新的統合評価システムARKADIAの開発状況及び高速炉への適用も紹介され、今後のナトリウム冷却高速炉に係る研究開発を米国側とも共同で進めることの重要性を強調しました。

マーチン元DOE副長官
NRCニー新型炉部長
NRICファイナン センター長
JAEA高速炉・新型炉研究開発部門
上出副部門長 、國富副部門長
アルゴンヌ国立研究所
ログランス=リバス
VTRプロジェクト事務局次長

その後の質疑応答では、大統領選挙及び議会選挙の結果による米国の先進炉関連のプログラムへの影響や日米協力の一環として当機構が有する常陽やもんじゅの経験をVTRの建設にどのように適用するのがよいか等活発な意見交換が行われました。

質疑応答の様子

以上の議論を受け、アルゴンヌ国立研究所 ディックマン上級フェロー(英文略歴)による総括として、2050年までのCO2排出量削減目標の達成は日本にとって並々ならぬ挑戦であり、原子力の役割が不可欠であることや原子力が脱炭素化に役割を果たすためには発電以外の用途への利用も含めたイノベーションが重要であることが述べられました。また、そのためには国際協力による技術、施設のシェアが鍵となり、これが過渡試験炉(TREAT)の利用により実現しつつあること、ARDPで選定された炉型が、当機構がこれまで開発してきた炉型と共通したものであることは、本分野における当機構との協力の可能性を示すものであり、次世代の人材育成が重要であること等が述べられました。

アルゴンヌ国立研究所
ディックマン上級フェロー

最後に当機構伊藤副理事長(英文略歴)から閉会挨拶として、本シンポジウムへの謝意及び今回のシンポジウムでの議論と今後の日米間の協力を通じて、幅広い分野、とりわけ原子力分野でのパートナーシップを育んでいくことへの期待を表明し、本シンポジウムの幕を閉じました。

ウェビナー形式での初めての開催となりましたが、日米両国の原子力研究開発のキーパーソンの参加を得ることができ、日米両国の最近の動向を踏まえた中身の濃い議論が展開されました。また、これまでに比べ多数の聴衆の参加を得ることができました。当機構は、今後も、新型コロナウイルスの動向も勘案しつつ、様々な機会を捉え、米国とのネットワーキングの拡大を図ってまいります。

JAEA伊藤副理事長