シビアアクシデント評価研究グループ

シビアアクシデントとは、原子力施設の設計想定を大幅に超えて過酷な状態に至る事故のことです。当研究グループは、原子力施設のもつ潜在的なリスクに関する情報を活用したより科学的・合理的な規制の構築を支援するため、シビアアクシデントの進展過程や、そのときに環境に放出される放射性物質の種類、物理的・化学的形態、量、放出のタイミングなど(これらを総合して「ソースターム」と呼びます。)を評価するための研究を行っています。これらの研究は、原子力施設における多様な対策の成立性及び有用性の評価や継続的な安全性向上の評価に役立ちます。また、本研究の成果は、事故影響評価コードOSCAAR等を用いて行われる放射性物質の大気拡散解析や周辺住民の被ばく線量評価のための入力情報としても活用されます。

図1
図1: 研究の全体像

1. 原子力発電所を対象としたシビアアクシデント評価研究

炉心損傷を伴うシビアアクシデントの進展やソースタームを把握するためには、その過程で生じる複雑で多様な物理的・化学的現象や運転員操作等の事故緩和策に伴う影響を考慮できるシビアアクシデント総合解析コード(以下、「SA解析コード」と呼びます。)が必要となります。このため、当研究グループではTHALES2/KICHEコードの整備を進めています。現在は、ヨウ素(I)やセシウム(Cs)といった核分裂生成物(FP)の原子炉冷却系内及び格納容器内における化学的挙動に係わるモデルを中心に同コードの改良を進めるとともに、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「1F事故」と呼びます。)の解析に適用することで、炉内状況の推定や、放射性のヨウ素やセシウムの環境への放出量を評価しています。さらに、様々な要因に起因するソースターム評価の不確かさや各要因の感度を評価する手法、シビアアクシデント対策を最適化する手法等の開発を行っています。これらの手法を有効に活用することで、ソースタームに影響を及ぼす支配的要因の把握や、対策の有効性評価などが可能になります。

図2
図2: THALES2/KICHEの紹介

1.1 シビアアクシデント総合解析コードの高度化に向けたFP化学に関する研究

ソースターム評価において、不確かさが大きく、1F事故の分析でも重要性が高いとされる評価項目として、燃料から放出されたヨウ素やセシウムといったFPの化学反応や、その結果生成される化学種の特定が挙げられます。当研究グループでは、原子炉内で生成されるFP化学種の推定や、制御材・構造材がFP化学種の移行に与える影響の解明などを、熱力学平衡論及び反応速度論に基づく手法を用いて進めています。これまでの研究では、揮発性ヨウ素化学種の生成反応における重要パラメータである液相pHに対し、原子炉内で生成されるFP化学種が間接的に大きな影響を及ぼすことを明らかにしました(図3)。これらの研究で得られた知見の活用により、ソースターム評価技術の高度化を進めます。

図3
図3: (a) FPの化学挙動, (b) FP化学種がpHに与える影響

1.2 ソースタームの不確かさ評価及び感度解析手法の開発

シビアアクシデント進展の解析には、複雑で多様な物理的・化学的現象をモデル化した解析コードを用いるため、現象の理解が不十分であること等に起因して解析結果には大きな不確かさが含まれます。そのため、不確かさ解析により不確かさの程度を把握し、感度解析により不確かさの支配的要因を同定することは、解析結果の信頼性を高め、SA解析コードの高度化を効果的・効率的に進める上で非常に重要です。そこで、ソースタームの不確かさ解析及び感度解析を行う一連の手法を開発しました(図4)。この手法と、化学反応モデルを有し様々なヨウ素化学種を考慮できるTHALES2/KICHEコードとを連携し、多様な事故シナリオにおけるソースタームの不確かさを評価するとともに、感度解析で不確かさの要因を同定し、ソースターム評価における不確かさの低減を図ります。

図4
図4: ソースタームの不確かさ・感度解析手法の流れ及び評価結果の例

再処理施設を対象としたシビアアクシデント評価研究

再処理施設において想定されるシビアアクシデントのうち、リスク評価上重要な事故として、高レベル放射性廃液貯槽における冷却機能喪失事故(蒸発乾固事故)が挙げられます。この事故では、放射性物質がエアロゾル等の形態で水蒸気、硝酸蒸気及びNOxガスの混合雰囲気中を移行し、これらの搬送気体とともに環境中に放出されると考えられます。このような蒸発乾固事故を対象に、廃液から気相中に放出される放射性物質の量や化学種を予測するモデルを構築し、放射性物質移行挙動解析コードARTに導入するとともに、熱流動解析コードCELVA-1Dとの連携を視野に入れて、再処理施設ソースターム評価手法の高度化を進めています。

図5
図5: 蒸発乾固事故で想定されるエアロゾル等の生成及び移行

2.1 蒸発乾固事故の解析手法の整備

蒸発乾固事故における再処理廃液から気相への放射性物質の移行メカニズムは、沸騰により生成される飛沫のうち比較的小さい粒径の液滴が放射性物質を含むエアロゾルとして気相へ移行し、さらに沸騰が進み溶液が乾固に至る過程でルテニウム(Ru)が揮発性化学種に変化し大量に揮発するというものです。このような現象での放射性物質の気相への移行量を評価するため、廃液の沸騰現象を模擬する計算プログラムを開発し、これに、実験データ等から得た硝酸塩濃度と気液各相の硝酸モル分率の相関式、飛沫同伴率及びRu 移行速度に係る相関式を組み込みました。これにより、廃液温度が120℃未満での飛沫同伴による放射性物質の気相へ移行が精度良く模擬できるようになりました。

図6
図6: 気相へのFP移行割合に関する解析結果と実験データの比較

ページTOP