サイクル安全研究グループ

研究内容

サイクル安全研究グループでは、再処理施設の重大事故である蒸発乾固事故と火災事故をターゲットとして、放射性物質の移行挙動を明確にするための科学的・技術的知見を収集し、事故影響を評価する手法の開発を行っています。

高レベル濃縮廃液蒸発乾固事故時の放射性物質の揮発挙動を評価する

再処理施設では、使用済核燃料からウラン、プルトニウムを回収した後の放射性元素を含む高レベル濃縮廃液(以下、廃液)を一時貯蔵しています。放射性元素の崩壊熱を取り除くため、廃液は常に冷却されています。電源喪失等によってこの冷却機能が失われ、事故収束の対策が十分機能しない場合、廃液温度が上昇し沸騰、乾固に進展する恐れがあります。この事故は、「高レベル濃縮廃液の蒸発乾固」として、再処理施設における重大事故(設計上の条件より厳しい条件によって発生する事故)の一つとして、十分な安全対策が求められています。

放射性元素のうちルテニウム(Ru)は、廃液中で揮発性の化合物(以下、ガス状Ru)を形成することから他の金属元素と比べて多量に放出されることが報告されています。廃液からRuがガス状の化合物として放出されると、飛沫のようにフィルタで捕集ができないことから、施設外へ放出されるリスクが高くなります。そのため、Ruの放出挙動の把握は、安全評価上重要な検討課題となります。

蒸発乾固事故時における廃液タンク内のイメージ図
図2-12:蒸発乾固事故時における廃液タンク内のイメージ図

廃液タンクで発生したガスや飛沫等の配管系への流出を模式的に表した図です。蒸発乾固事故時には、廃液からは水蒸気、硝酸蒸気、NOxに加えて廃液の飛沫、ガス状Ru(RuO4)が主と考えられる揮発性物質の放出が想定されます。

この問題に対して、実験装置を工夫して様々なデータを取得しています。

再処理施設の火災に関する研究

再処理施設では、使用済燃料から生じる粒子状の放射性物質を施設内に閉じ込めるHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)が備えられています。一方、使用済燃料から有用な元素を回収するため、大量の有機溶媒を用います。これはリン酸トリブチル(TBP)とドデカンの混合物であり、可燃性であることから、火災を想定する必要があります。再処理施設の安全評価では、想定を超える条件の事故(重大事故)も考慮することが重要です。

本研究の大きな目的は、このHEPAフィルタが、有機溶媒火災の状況下でどこまで破損せずに健全かを明らかにすることです。HEPAフィルタが破損すると、放射性物質の施設外への放出が想定を超えて増大し、重大事故に進展する可能性があります(図0-2)。

再処理施設における火災発生時のイメージ図
図2-12 再処理施設における火災発生時のイメージ図

火災発生時には有機溶媒(ドデカン、TBP)が燃えることで煤煙が発生します。油滴が煤煙に混じるとともに、放射性物質も飛散します。それらを施設内に閉じ込めておくのがHEPAフィルタの役目です。