研究内容
全体概要
令和7年2月に第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。そこでは既存の原子力プラントについて、安全確保を大前提に再稼働を進めていく方針が示されています。
プラントを長期にわたり安全に使い続けていくためには、機器や構造物の経年劣化の進み具合を評価し、健全性を確認することが重要です。
当グループでは、現在運用されている構造健全性評価や経年劣化評価手法の信頼性の向上及びこれらに関する国の規制活動に対する技術的判断に役立てることを目的として、既存のプラントの①原子炉圧力容器を対象とした健全性評価や材料劣化に関する研究及び②原子炉配管を対象とした健全性評価や材料劣化に関する研究を実施しています。
また、国外において活用が進められており、国内においても活用の検討が進められている③確率論的破壊力学に基づく健全性評価手法について、これまでに得られた健全性評価や材料劣化に関する知見や研究成果を総合して、解析コードの整備や活用方策の検討を実施しています。
①原子炉圧力容器の経年劣化に関する研究
概要
原子力発電所の長期運転においては、原子炉構造物の健全性確保がこれまで以上に重要な課題となっています。放射性物質や冷却水を閉じこめる原子炉圧力容器(RPV)を構成する原子炉圧力容器鋼は、原子炉の運転中に炉心からの中性子照射を受けることにより、照射前に比べてより高い温度で脆い性質を示すようになります。
RPVを長期間安全に使用するため、監視試験等に基づき脆化の程度を考慮した上で健全性評価が行われています。この健全性評価では、圧力容器鋼が原子炉運転に伴う中性子照射により脆くなっても(照射脆化)、想定される最も厳しい事象における破壊の駆動力を上回る粘り強さ(破壊靭性)を有することが、破壊力学評価に基づき確認されます。
経年劣化研究グループでは、原子炉圧力容器鋼を用いて破壊靭性評価及び照射による微細組織の変化の分析を実施し、照射脆化やそのメカニズムの究明、破壊力学評価の高度化に資する研究に取り組んでいます。これら取組の成果は、規制機関の技術的要求の確認を支援するとともに、原子力発電所の長期運転における健全性・安全性確保に貢献するものと期待されます。
照射脆化に関する研究
原子炉圧力容器鋼の照射脆化には、鋼材の化学組成、製造プロセス(圧延または鍛造等)及び照射温度・照射量といった条件が大きく影響します。そのため、長期運転を想定して照射脆化を評価するためには、高照射量領域まで中性子照射した材料(照射材)を用意する必要があります。
原子炉圧力容器鋼の照射脆化を調べる目的で、原子力機構の施設である材料照射試験炉JRR-3での中性子照射試験と廃棄物安全研究施設(WASTEF)での機械試験を一連で実施できる研究環境を構築しました(図2)。
令和6年度には、構築した研究環境により、原子炉圧力容器鋼に対して60年運転相当の高照射量領域までの中性子照射試験を実施し、機械試験の結果に基づき破壊靭性評価を行いました。
また、これまでに得られた照射材の機械的特性を整理し、「原子炉圧力容器鋼の機械的特性データ (RPVSDATA)」としてデータベース化しました。このデータベースは、原子力機構のデータベースプログラム(PRODAS)で公開されており、統計的な照射脆化分析が可能となっています。
さらに、原子炉圧力容器鋼の継手溶接やクラッド施工時の熱の影響により、溶接部の近傍(溶接熱影響部)に生じる非均質な金属組織が破壊靭性や照射脆化に与える影響を調べています。
破壊力学評価に関する研究
RPVの構造健全性を評価するため、現行の国内規格では破壊力学に基づき、破壊に対する抵抗力(破壊靭性値)と破壊の駆動力(応力拡大係数)の比較による破壊評価が行われています。RPVの破壊靭性値を求めるために、破壊靭性試験片と呼ばれる予め欠陥を導入した試験片を用いた破壊試験が行われます。
一方、実際のRPVは、破壊靭性試験片に比べて非常に大きく、想定される欠陥の形状や欠陥に対する力の加わり方も異なります。
そこで、本研究では、RPVを対象とした健全性評価において存在を想定される欠陥を模擬した欠陥を導入した大型の試験体に対して、RPVにとって最も厳しい負荷状態を模擬した荷重を加えて破壊させる試験を実施し、従来の破壊靭性試験片によって求められる破壊靭性値の保守性を確認しています。
RPVは円筒構造物であり、その周方向と軸方向の2方向の力が同時に加えられる2軸荷重の状態です。一方、従来の破壊靭性試験片は、1方向の力によって破壊試験が行われています。
本研究では、より実際のRPVにおける負荷状態に近い、2軸荷重を再現するための荷重負荷装置及び試験体を設計・製作しました(図3)。
試験体には構造健全性評価で想定される欠陥を模擬した亀裂を導入し、この試験片に対して徐々に荷重を大きくし、破壊を生じさせることにより、実際のRPVを模擬した条件下での破壊靭性値を評価しています(図4)。
また、破壊試験に加えて、試験の再現解析も実施することにより、欠陥周辺でどのような力(応力)が加わっているかを調べ、破壊原因の調査も行っています(図5)。
②原子炉配管の経年劣化に関する研究
概要
原子炉配管は、定期的な検査や点検によって、運転時間の増加に伴う材料強度の低下や亀裂の発生・進展などの経年劣化の状況を的確に確認し、適切な補修や取り換えを行うことで安全性が保たれています。
原子炉配管で生じる経年劣化の例としては、配管内面が水流等によって腐食し肉厚が減少する現象である減肉、材料・応力・環境の3因子が重畳することで亀裂が発生・進展する現象である応力腐食割れ(SCC: Stress Corrosion Cracking)(図6)、材料に繰り返し応力が負荷されることにより亀裂が発生・進展する現象である疲労などがあります(図7)。
検査によってこれらの経年劣化が見つかった場合には、ある運転期間中に経年劣化により減肉や亀裂がどの程度進展するか、亀裂が進展した状態で運転時に想定される応力や地震による応力に耐えられるのかが評価されます。
応力腐食割れに関する研究
近年、加圧水型原子炉(PWR)一次系水質環境下のステンレス鋼管溶接部近傍においてSCCの発生が確認され、その要因として溶接残留応力や硬さが挙げられています。
しかし、亀裂進展評価において必要な肉厚内の残留応力分布や硬さ分布を直接測定することは困難です。
そこで、本研究グループでは、溶接を模擬した有限要素解析により溶接部近傍の溶接残留応力と硬さの分布を推定する手法の整備を進めています(図8)。
また、整備した手法の妥当性を確認するために、実際の配管を模擬して配管の溶接を行い、溶接残留応力や硬さの測定結果と整備した解析手法による推定結果との比較を行っています(図9)。
溶接残留応力の測定には、原子力機構が有する研究炉であるJRR-3の中性子を利用した中性子応力測定装置(RESA)を用いるなど、原子力機構の技術を活用して研究を推進しています。
延性破壊に関する研究
近年、地震などの設計上の想定を超える事象の発生を念頭に、原子炉機器が現実的にどの程度の荷重まで耐えられるかを評価することが重要になっています。
そのため、大きな荷重により生じる、機器の大変形を伴う延性破壊の評価が必要です。特に、亀裂を有する機器が大きな荷重を受けた場合には、亀裂の進展を含めた機器の延性破壊挙動の予測が必要となります。
本研究グループでは、亀裂が存在する機器が大きな荷重を受けた場合に、亀裂の延性進展を含む延性破壊挙動について損傷力学を考慮した有限要素解析により予測する手法の構築を進めています。
解析の一例として、曲げを受ける配管に存在する亀裂の進展の様子を図10に示します。図中の赤色の領域は、延性亀裂進展が発生した領域を表しており、変位の増加につれて亀裂が配管の周方向に進展する様子を確認できます。
また、このような解析結果は反復計算を通じて解が一つに収束した結果として得られますが、延性破壊挙動に関わる反復計算においては、収束解を得にくいという問題があります。そこで、反復計算における定式化の工夫により、その改善を図りました。
③合理的な評価手法の整備
確率論的破壊力学解析
前項までで述べたRPVや原子炉配管の健全性評価手法は「決定論的評価手法」に分類されます。この評価手法で得られる結果は1回の評価に対して1つです。
しかし、原子炉機器の材料特性(化学成分や脆化量など)や評価時の環境(温度や負荷荷重など)は本質的に不確実さ(ばらつき)を有するため、解析結果にも不確実さが生じます。
そのため決定論的評価では、結果に影響を与える様々な因子(影響因子)の不確実さを評価結果が保守的になるように考慮しています。
一方、近年では、図11に示すように、影響因子の不確実さを確率分布として考慮し、解析結果を「原子炉機器が破損する確率」として算出することで、原子炉機器の合理的な健全性評価を可能にする「確率論的破壊力学(PFM)」が注目されています。
当グループでは、PFM解析コードとしてPASCAL5(RPVを対象)やPASCAL-SP2(原子炉配管を対象)の開発を進め、随時アップデートを重ねながら、本解析コードを用いた原子炉機器の合理的な健全性評価に資する研究を実施しています。
PFMの活用例として、図12に示すように、高経年化した国内PWR相当のRPVの破損確率を計算することにより、中性子の照射量が高い部位や溶接部において破損確率が高くなるなど、破損しやすい部位を明確化することができます。
また、破損確率を用いることで、現行の決定論的評価手法の保守性を定量的に示すことができます。例えば、原子炉圧力容器の破損に直結する一次冷却水の大規模な漏えいの発生を仮定し、決定論的評価手法では破損と評価される(破損確率が1となる)ような条件であっても、図13に示すようにPFMに基づく評価により破損確率は0.01未満であるといった使い方ができます。