センター長挨拶

日本原子力研究開発機構では日本原子力研究所当時の1970年代から冷却材喪失事故時の炉心冷却性研究を皮切りに、事故時の原子炉システム、燃料、機器・構造物の健全性などに関する研究を実施し、その成果を「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針」などの指針類に反映するとともに、国内外の事故・トラブルに対応した調査、分析などを実施してきました。スリーマイル島原子力発電所事故以降の研究テーマはシビアアクシデントが中心でしたが、1990年代にアクシデントマネジメント策が国の要請に基づく事業者の自主的な取組みとして整備されて以降、シビアアクシデントを対象とした研究は縮小し、軽水炉利用の高度化や高経年化への対応を中心に、その研究対象は、軽水炉のみならず再処理施設、放射性廃棄物施設、環境や公衆への影響まで広範にわたるものになりました。
2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では、シビアアクシデント研究に従事した研究者を中心とした専門家が、現地の限られた情報に基づきそれまでに整備した解析コードなどを活用して事故進展の推定などを実施し、情報を当時の原子力安全委員会等の関係機関に随時提供しました。原子力安全に携わる組織として、シビアアクシデントを未然に防ぐことが出来ず住民の生活に大きな影響を与えてしまった反省に加え、厳しい自然災害の影響やシビアアクシデント対策の有効性評価などの研究体制にも大きな課題があったことが明らかになりました。
安全研究センターでは、質の高い安全研究を行って価値ある科学的・技術的知見を創出し、原子力規制委員会を技術的に支援することをミッションとしています。原子力の安全評価には、原子炉物理、放射線、燃料、熱水力、材料、構造、化学、環境など多様な分野の知見が必要であるため、10の研究グループがそれぞれの専門性を活かしながら、原子力利用に伴うリスクの評価技術を高度化し不確かさを低減するための研究を行っています。特に、地震などの外部事象の影響、シビアアクシデントの発生防止と影響緩和、原子力防災に関する研究を重点的に取り組んでいます。また、多様な施設や事故条件に対応する研究を絶やさないことにも注力しています。これらの研究では大型非定常試験装置(LSTF)、大型格納容器試験装置(CIGMA)、原子炉安全性研究炉(NSRR)などを用いる大型実験や主に小型装置を用いた個別現象に着目した研究を組合せ、成果を解析コードに集約して統合化しています。
原子力安全を継続的に向上するためには、安全に関する幅広い分野の知見をバランスよく考慮して改善を続ける必要があります。このために当センターに求められる何より大事なことは、1F事故を教訓に、常に安全に与えるインパクトを重視し、従来からの手法に拘泥することなく研究を実施し、個別の研究分野の知見を深めることや研究成果を公表することに加え、分野の狭間に埋もれがちな安全問題にも対処し、事故やトラブルが起きた際に高い技術力をもって迅速に対応できる人材を育成することです。このためには関係機関との共同研究等を通じて、分野や組織の枠をこえて、多様な専門家や学生の皆様に我々の安全研究に参加していただき、弱点を克服していくことが必須です。安全研究センターの研究活動や人材育成について、今後とも関係各位のご理解、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
安全研究センター長 西山 裕孝