令和3年3月18日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

OECD/NEA照射試験フレームワーク「FIDESフィデス」への参加
~原子炉燃料・材料の研究開発を長期的に支援する国際的な枠組み~

【発表のポイント】

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)は、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)が原子力機構を含む各国の関係機関との協議を経て立案した「照射試験フレームワーク(Framework for IrraDiation ExperimentS:FIDESフィデス)」に参加します。

FIDESでは、軽水炉の更なる安全性向上や次世代燃料の実用化に欠かせない燃料・材料の照射試験の実施と、これに必要な研究炉や燃料試験施設といった照射試験施設の維持・活性化を目的として、参加各国が協調して次の取り組みを進めます。

  1. 安全審査を担う規制関係機関、原子炉の設置や運転を担う原子力産業界、及び研究機関等から成る大規模な国際コミュニティを構築する
  2. コミュニティ内での照射試験のニーズ発掘、資金調達及び施設利用について便宜を図り、照射試験施設の利用を促進及び支援する
  3. 協議により選定した照射試験を合同試験プログラム(Joint ExpErimental Project:JEEP)として実施し、コミュニティ全体で成果を共有する

FIDESの実施期間は第一期として2021年から2023年までの3年間が計画されており、これに12か国※1の関係機関が参加を表明しました。第一期計画の成果を踏まえて2024年以降の新たな3ヵ年計画が検討されます。その後も計画を更新していくことで、FIDESは永続的に燃料・材料の技術開発を支える世界最大の枠組みとなる見込みです。

原子力機構は、原子力規制庁を始めとする国内機関※2とともにFIDESに参加し、今後実施されるJEEPの成果を軽水炉利用における安全性の向上に活用します。同時に、FIDES当初から開始されるJEEPの1つである反応度事故(原子炉の出力が暴走する事故)模擬試験プログラム(High-burnup Experiments in Reactivity Initiated Accidents: HERAヘラ)の一部を、安全研究センター※3が原子力科学研究所※4の原子炉安全性研究炉(Nuclear Safety Research Reactor:NSRR)を用いて実施し、活動の一翼を担ってまいります。

※1 12か国
日本、ベルギー、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、オランダ、ロシア、スペイン、スイス、米国

※2 国内機関
原子力規制委員会原子力規制庁、一般財団法人電力中央研究所、三菱原子燃料株式会社が参加を予定

※3 安全研究センター
日本原子力研究開発機構 安全研究・防災支援部門 安全研究センター

※4 原子力科学研究所
日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 原子力科学研究所

【研究協力の背景と目的】

燃料・材料の照射試験(注1)施設は、発電用原子炉内の中性子照射環境を模擬し、さらに、事故時に想定される高い温度等のより過酷な条件をつくり出すことができます。このため、原子力発電所で使われる燃料・材料、特に現在世界的な関心を集めている事故耐性燃料(注2)の様な新たに開発された技術が事故条件下で期待通りの性能を発揮できることを確認する際に照射試験施設が必要となります。

このような照射試験の国際拠点としてノルウェー・ハルデン炉が長年にわたり活用され、1958年以来OECD/NEAの「ハルデン炉計画」の下で世界の研究開発ニーズに応えてきましたが、2018年に廃炉が決定されました。また、これに先立つ2016年には原子力機構の材料試験炉(JMTR)の廃炉が決定されるなど、世界的な照射試験施設の不足による燃料・材料研究開発の衰退が懸念される状況となっていました。

これを受けてOECD/NEAは、ハルデン炉計画の役割を引き継ぐプロジェクトとして、各国の照射インフラを活用した永続的な照射試験フレームワーク(FIDES)の構築を検討するに至りました。2018年から2019年に開催された4回のワークショップには、ハルデン炉計画参加機関を中心とする原子力機構他多くの国・機関が参加し、FIDESの成立性、運営方法、FIDES下で実施される合同試験プログラム(JEEP)(注3)の候補を議論しました。2020年にはプロジェクト協定書原案が固まり、2021年から2023年までの第一期計画に参加する機関がこのたび協定書への署名を開始しました。

安全研究センターは、JEEPの一つである反応度事故模擬試験プログラム(HERA)を米国アイダホ国立研究所(INL)と共同で実施します。反応度事故では原子炉の出力が急激に上昇して燃料が破損する恐れがありますが、出力上昇の速さによって燃料の破損挙動が大きく変わり得る点が安全評価上の不確かさと認識されてきました。INLのTREAT(Transient REActor Test)炉は比較的緩やかな出力上昇を模擬でき、逆にNSRRは非常に短時間の出力上昇を実現することが可能です。同一設計の試験燃料棒に対して両研究炉の対照的な条件で試験を行うことで、出力上昇速度の違いが燃料の破損挙動に及ぼす影響を世界で初めて直接確かめることができるため、事故を模擬する試験技術の高度化や安全評価の不確かさの低減に対して大きく貢献することが期待されます。

原子力機構は、今後、HERAの実施機関としてFIDESの目的である照射試験施設の維持・活性化に貢献していくとともに、他のJEEPで得られる新しいデータや知見を、原子力機構が有するFEMAXIコード(注4)等の燃料挙動シミュレーション技術や安全評価手法の高度化に活用し、改良した解析コードの公開を通じて成果を社会へ還元します。また、FIDESの運営への積極的な関与を通じて、燃料・材料分野の研究開発を国際的に牽引できる人材の育成と、原子力機構が保有する試験研究施設の国際活用を図ってまいります。

【用語解説】

注1)照射試験

発電用原子炉で使われる燃料や材料について、通常運転中の原子炉内でのふるまい、通常は起こらない高い出力下などでのふるまい、あるいは、長期間使用した後の状態などを詳しく調べるため、少数の試料を専用のカプセルに入れ、発電用原子炉内の環境を模擬することができる研究用原子炉で照射すること。

注2) 事故耐性燃料

原子炉が事故の様な過酷な状況に陥った場合においても、燃料自身が持つ固有の安全性によって、シビアアクシデントに進展させない、あるいは進展を大幅に遅らせるような燃料の概念を指す。東京電力福島第一原子力発電所事故などから得られた経験、教訓を踏まえ、各国で研究開発が進んでいる。

注3) 合同試験プログラム(Joint ExpErimental Project:JEEP)

FIDESの参加機関が照射試験施設を使って提案・実施する試験研究。FIDES第一期では、以下の4つのJEEPが計画されている。

注4) FEMAXI(Finite Element Method in AXIs-symmetric system)コード

FEMAXIは、原子炉の炉心内に置かれた一本の燃料棒に着目し、燃料棒を構成する燃料ペレットと被覆管の温度、それらに生じる力、燃料棒内部での核分裂生成物の移行などを計算することができる燃料ふるまい解析コードの一つである。原子力機構(旧日本原子力研究所)で最初のバージョンが開発されて以降、大学、燃料メーカーなどとの共同開発を経て改良が重ねられてきた。燃料ふるまい解析に関する国内唯一の公開コードとして、試験データの分析や新しいタイプの燃料の研究開発、教育などに利用されている。

参考部門・拠点: 安全研究センター

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