令和2年11月27日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

高温ガス炉の実用化に向けて英国との協力体制をさらに強化
~英国原子力規制局と高温ガス炉の安全性に関する情報交換のための取決めを締結~

【発表のポイント】

【本発表の背景】

英国では、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることが法制化されており、炭酸ガスを排出しない原子力(軽水炉、新型モジュール炉(AMR))の導入/開発を重点課題として推進しています。

また、2019年7月、経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、「日本国経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省との間のクリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」に署名し、この中で高温ガス炉を含む新型炉の開発や展開の協力を奨励しており、両国の「関連する公的機関、国研、大学、民間企業の協議を促進する」としています。

これを受け、原子力機構は、2020年10月に、まず英国国立原子力研究所(NNL)との間で締結している包括的な技術協力取決めを改定し、「高温ガス炉技術分野」での技術開発協力を開始しました。

今回さらに、英国においてAMRに対する規制整備を進めている英国原子力規制局(ONR)とも高温ガス炉の安全性に関する情報交換のための協力を開始し、開発と規制の両輪で、英国との高温ガス炉開発の協力体制を強化し、日英間の高温ガス炉に関する協力がより一層推進されることとなりました。

高温ガス炉の実用化にあたっては、高温ガス炉の安全上の特長(高温ガス炉は、燃料被覆に耐熱性に優れたセラミックスを使用、黒鉛構造材(減速材)により事故時の温度変化が緩慢、不活性なヘリウムガス(冷却材)は構造物と反応しないといった特長を持ち、原理的に炉心溶融を起こさない設計ができる炉型)を考慮した規制が必要です。原子力機構は、国際原子力機関(IAEA)において、高温工学試験研究炉(HTTR)の安全設計、建設、運転等を通じて培った我が国の提案する高温ガス炉安全基準の国際標準化に向けた活動を精力的に進めています。

原子力機構は、高温ガス炉の実用化に期待が高まっている英国と協力し、HTTRの建設及び運転を通じて培った我が国の高温ガス炉技術の国際標準化を図り、国際競争力の強化を目指すとともに、国際的に喫緊の対応が求められている気候変動の緩和へ貢献してまいります。また、我が国の安全基準についてONRの理解を得、我が国の技術が認められれば、今後英国がAMRを導入する際に、HTTRで実績のある我が国の産業界の参入促進が期待されます。

【用語解説】

1)英国原子力規制局(ONR)

英国における原子力の安全及びセキュリティに関する規制当局です。2011年4月に英国保健安全執行部内の組織改正により設置され、2013年にエネルギー法の下でエネルギー気候変動省(当時)直轄の独立機関となり、2014年4月1日に現在の独立した法定特殊法人となっています。現在、英国におけるAMR導入にあたって、AMRに対する規制の検討等を進めています。

http://www.onr.uk

2)新型モジュール炉(AMR; Advanced Modular Reactor)

英国では、小型モジュール炉(SMR; Small Modular Reactor)は軽水冷却によるもののみを意味します。他方、ヘリウムガス、ナトリウム、溶融塩等、軽水以外を冷却材として利用するものは新型モジュール炉(AMR)として分類し、SMRとAMRを明確に区別しています。

3)高温ガス炉

① 化学的に不活性なヘリウムガスを冷却材として用いており、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、
② 耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いており、1600℃の高温まで核分裂生成物(FP)を保持する能力に優れていること、
③ 出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に熱容量の大きい黒鉛等を大量に用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと、
④ 黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器内の冷却材ヘリウムガス及び原子炉圧力容器外の空気による自然対流、さらに外表面からの熱放射によって、炉心の崩壊熱を除去することが可能なこと、 等の特長を持つ、安全性に優れた原子炉です。

以上の特長により、仮に冷却材流量を喪失し、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、固有の安全性を持つ高温ガス炉は自然に冷やされ、最終的に低い出力で静定します。

また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出すことが可能で、発電、水素製造、海水淡水化等の幅広い利用が可能な原子炉です(図参照)。

4)高温工学試験研究炉(HTTR)

HTTRは、我が国初の黒鉛減速、ヘリウムガス冷却のブロック型の高温ガス炉であり、熱出力30 MW、原子炉出口冷却材最高温度は950℃です。1998年11月10日に初臨界、2004年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃を達成しました。また、2010年12月に、冷却材流量を喪失させ、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、固有の安全性により自然に停止し、冷却されることを実証する国際共同試験に成功しました。今後、運転を再開し、全電源喪失事故を想定した安全性実証試験を行う予定です。

図 多様な熱利用が可能な高温ガス炉

【参考】

参考部門・拠点: 高速炉・新型炉研究開発部門

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