平成31年3月29日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

「福島の環境の今とこれから」をよりくわしく
- 環境中の放射性セシウムに関する総合情報サイトを新たに開設 -

【発表のポイント】

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)福島研究開発部門 福島研究開発拠点 福島環境安全センターでは、この度、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所(以下「1F」という。)事故後における環境中の放射性セシウムに関する情報をまとめた新情報サイト『福島総合環境情報サイト』を開設しました。このサイトは、原子力機構によるこれまでの調査データ、空間線量率や放射性セシウムの動きなどに関する数値解析の結果、そして、原子力機構に寄せられた質問への回答なども含めて統合し、体系的に整理したものです。

新たに整備した『解析事例サイト』では、例えば「降雨のために水の濁り具合や放射性セシウム濃度はどう変わるのか」、「除染により特定復興再生拠点の空間線量率はどの程度低減されるのか」といった質問に関する数値解析の結果を、根拠とあわせて示しています。このサイトは、すでに公開している『根拠情報Q&Aサイト』と同じ項目立てであるため、関連する情報をすばやく探し出すことができます。また、『根拠情報Q&Aサイト』および『放射性物質モニタリングデータの情報公開サイト』についても内容を更新し、それらサイトへの入り口となる新情報サイト『福島総合環境情報サイト』を開設しました。

この新情報サイトでは、実際の観測データ、現地調査に基づく放射性セシウムの分布や動き、それらに基づく数値解析の結果などを参照することができます。これにより、住民ひとりひとりの疑問・不安解消から、自治体による被ばく低減のための合理的な安全対策の検討および避難指示解除などの福島復興に係る施策への活用まで、幅広い効果が期待されます。

原子力機構では今後、利用者からの意見や最新知見を反映して新情報サイトの内容を拡充し、自治体や一般の方々を対象として、環境が回復してきた福島の現状に関する科学的な知見を提供していきます。

【背景】

1Fの事故後、環境中に放射性物質が広く分布したものの、多くの生活圏では除染が進み、物理学的半減期やウェザリング効果と相まって、空間線量率は着実に低減してきています。平成29年4月までに、帰還困難区域を除き、多くの自治体で避難指示が解除されました。今後は避難指示が解除された場所での生活に役立つ情報が必要になります。

原子力機構はこれまでに、空間線量率や放射性セシウムの動きなどの調査研究を幅広く実施してきました。特に、放射性セシウムの動きについては、外部被ばくの観点からは、土砂についた形(懸濁態)での雨による移動と、それに伴う河川敷などへの蓄積による空間線量率への影響に着目して、また、内部被ばくの観点からは、水に溶けた形(溶存態)での流出による農林水産物への移行に着目して、環境動態研究を進めてきました。

これらの研究は、現在生じている現象を理解し、支配的な要因を明らかにしてきたものです。一方、今後の生活では、調査データが欠落している場所での空間線量率や放射性セシウムの動きを補完することにより、将来の推定が必要になると考えられます。そのため、数値モデルを構築し、様々な条件のもとでの数値解析を実施してきました。数値解析は上記のようなデータ欠落の補完や将来の推定に加えて、突発的な事象(例えば、台風等)や仮想的な条件での計算を通して、様々な事象の原因の究明や、除染の有効性の確認への応用を可能とします。

【内容・成果】

原子力機構ではこれまでに、空間線量率や放射性セシウムの動きなどの調査結果を集約した『放射性物質モニタリングデータの情報公開サイト』及び調査研究の成果に基づく科学的知見を分かりやすく整理した『根拠情報Q&Aサイト』を整備し公開してきました。

これらは事故当初から現在に至るまでの情報や知識を取りまとめたものですが、今後は避難指示解除後や住民帰還後の生活にも役立つ情報の提供が求められます。

そのため、これまで蓄積されてきたデータを基に、環境中の空間線量率や放射性セシウムの動きについて、様々なケーススタディを行った数値解析の結果をまとめた『解析事例サイト』を整備しました。解析事例サイトでは、以下のような疑問に対して、数値解析により得られた知見を集めています。

①放射性セシウムは環境中でどういうメカニズムでどのように動いているのか?
たとえば、
・ 地下方向への移行は、どういうメカニズムによるのか
・ 河川には、どこからどれくらい流出してくるのか
・ 淡水魚に取り込まれる放射性セシウムはどこから来たものか
② 空間線量率や放射性セシウム濃度は、環境の違いによりどのように変化するのか?
たとえば、
・ 除染方法の違いによって空間線量率はどう低減されるのか
・ 地形や地上構造物の違いによって空間線量率はどうなるのか
・ 降雨によって水の濁り具合や放射性セシウム濃度はどう変わるのか
③ 空間線量率や放射性セシウム濃度は将来どうなっていくのか?
たとえば、
・ 空間線量率は今後どのように変化すると予想されるのか
・ 除染により特定復興再生拠点の空間線量率はどの程度低減されるのか
・ 森林における放射性セシウム濃度は時間とともにどうなるのか

すでに公開している『放射性物質モニタリングデータの情報公開サイト』および『根拠情報Q&Aサイト』についても内容を更新しました。それらと今回整備した『解析事例サイト』を合わせて一つの総合情報サイトとしてまとめることにより、過去・現在・将来における空間線量率や放射性セシウム濃度についての情報を提供することができます。

【今後の展開】

今後は、調査研究で得られる最新の知見を反映し、サイト間およびサイト内各項目の連携を強化して内容を拡充するとともに、利用者からのご意見等を踏まえてより使いやすい、かつ分かりやすいサイトへと改善していきます。

付録:『福島総合環境情報サイト』のコンテンツ

参考部門・拠点: 福島研究開発部門

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