平成31年1月30日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

ポーランドにおける高温ガス炉技術者の人材育成を推進
~第1回高温ガス炉技術セミナー開催~

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉 敏雄、以下「原子力機構」という。)は、ポーランド国立原子力研究センター(以下「NCBJ1)」という。)と共催で「第1回高温ガス炉技術セミナー」を平成31年1月28日~29日にポーランドの首都ワルシャワで開催しました。

今回のセミナーでは、原子力機構、東京大学、東芝エネルギーシステムズ(株)から講師を派遣し、ポーランド国内の技術者、研究者等を対象に、高温ガス炉の設計、燃料・材料、安全解析等に関する講義を行ないました。セミナーには約120名が参加し、活発な質疑応答がなされ、ポーランドにおける高温ガス炉導入への強い期待を感じるものでした。

開会にあたっては、原子力機構大洗研究所が立地する茨城県大洗町の小谷隆亮町長から御挨拶をいただきました。また、本セミナーの冒頭で、東京大学大学院工学系研究科とNCBJの学術交流協定締結の署名式が行なわれました。本協定を通して、高温ガス炉の開発に不可欠な原子力基盤技術に関する研究協力の促進が期待されます。

ポーランド エネルギー省は、新たに産業への熱供給が可能な商用高温ガス炉2)(熱出力165MW[メガワット])と、研究用高温ガス炉(熱出力10MW)の導入を計画しています。原子力機構は、高温工学試験研究炉HTTR3)の建設・運転を通して、世界最先端の高温ガス炉技術を有しており、本技術をポーランドに展開することを目指して、NCBJと高温ガス炉技術に関する協力を進めています。今後も我が国の産学官が協力してセミナーを継続し、ポーランドで我が国の高温ガス炉技術への理解を深めていただき、国際協力の下での我が国の高温ガス炉技術の実証に役立てていきます。

【協力の背景】

高温ガス炉は、高温の熱を取り出せることから、産業利用や水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉であり、高温ガス炉に関する研究開発が各国で積極的に進められています。

例えば、中国では、2006年に「国家重大特別プロジェクト」の1つとして高温ガス炉開発が選定され、蒸気タービン発電を目的としたペブルベッド型高温ガス炉4)の実証炉HTR-PM(熱出力250MW×2基、冷却材出口温度750℃)の建設が2020年の運転開始を目指し、進められています。この実証炉等においては、原子力機構の高温工学試験研究炉(HTTR)で使用している日本の東洋炭素(株)製の黒鉛が採用されており、日本の高温ガス炉技術が使用されています。

原子力機構のHTTRと同型のブロック型高温ガス炉の開発は、ポーランドの他、EU産業界や米国NGNP産業アライアンスにおいて検討が進められています。ポーランドでは、産業界への熱供給を目的とした実用高温ガス炉(熱出力200~350MW)の開発計画があり、2030年代前半の運転開始を予定しています。また、これと並行して、NCBJへ研究用高温ガス炉(熱出力10MW)の導入計画があり、2020年代後半に運転開始の計画です。

EUでは、熱電併給の高温ガス炉コジェネレーションシステム開発を目指し、産業界のNC2I(Nuclear Cogeneration Industrial Initiative)が設置され、コジェネレーションにおける熱のマーケット調査、エンドユーザー調査、経済性評価、技術的課題抽出、安全性、許認可等についての研究活動を実施しています。さらに米国では、国と共にNGNP(Next Generation Nuclear Plant)計画を推進するNGNP産業アライアンスが、国際的な枠組み作りを目指し、ブロック型高温ガス炉の国際実証炉開発を進める計画(PRIME計画)を立ち上げようとしています。

日本の高温ガス炉技術は、原子炉出口温度として世界最高の950℃が達成可能で、水からの水素製造技術を含め世界をリードしています。原子力機構ではHTTRを用いて、50日間連続で950℃の高温のヘリウムガスを供給する高温連続運転や、原子炉の冷却を強制的に停止した状態で制御棒での停止操作を行わなくても原子炉の出力が低下して安定な状態に収束することを確認した炉心冷却喪失試験等、高温ガス炉の特長を確認する様々な試験運転を実施し、高温ガス炉の運転技術を蓄積してきました。

原子力機構は2017年にポーランドNCBJと「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」を締結しました。ブロック型高温ガス炉開発を精力的に進めているポーランドとの協力を通して、日本の高温ガス炉技術の国際展開と国際標準化を図り、海外で日本の高温ガス炉技術の実証を目指し、日本の高温ガス炉開発に役立てていきます。

【用語説明】

1)NCBJ

ポーランド国立原子力研究センター(Narodowe Centrum Badań Jądrowych(英語表記:National Centre for Nuclear Research):NCBJ)は、加速器科学、放射線医学物理学、材料研究、プラズマ物理学、核物理学、素粒子物理学、ニュートリノ物理学、宇宙放射線物理学等の研究を実施しています。1974年12月に臨界を達成した熱出力30MWの研究炉MARIAを運用し、燃料、材料の照射試験、放射性同位元素製造やシリコン半導体の製造、中性子ラジオグラフィ等の多種多様な照射試験を実施しています。

2)高温ガス炉

高温ガス炉は、①化学的に不活性なヘリウムガスを冷却材として用いており、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、②耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いており、1600℃の高温まで核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、③出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に熱容量の大きい黒鉛*等を大量に用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと、④黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器内の冷却材ヘリウムガス及び原子炉圧力容器外の空気による自然対流、さらに外表面からの熱放射によって、炉心の崩壊熱を除去することが可能なこと、等の特徴を持つ安全性に優れた原子炉です。

このため、仮に冷却材流量を喪失し、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、軽水炉とは異なり、固有の安全性を持つ高温ガス炉は、自然に止まり、冷やされます。

また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉です。

原子炉に用いる黒鉛は、高純度で耐食性に優れており、大気中でも発火して燃えることはありません。

3)高温工学試験研究炉(HTTR)

HTTRは、我が国初の黒鉛減速、ヘリウムガス冷却のブロック型の高温ガス炉であり、熱出力30 MW、原子炉出口冷却材最高温度は950℃です。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30 MWにおいて原子炉出口冷却材温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃、平成22年3月13日に50日間の高温(950℃)連続運転を達成しました。また、平成22年12月に、冷却材流量を喪失させ、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、固有の安全性を持つ高温ガス炉が自然に止まり、冷やされることを実証する国際共同試験に成功しました。

HTTRは、現在、試験研究炉の新規制基準への適合性確認の審査を受けており、安全確保を最優先として、早期の運転再開を目指しています。

4)ペブルベット型高温ガス炉

ドイツで開発された高温ガス炉の炉型の一つであり、被覆燃料粒子と黒鉛粉末を直径約6cmの球状に成形した燃料を使用することがブロック型高温ガス炉と異なります。燃料球は原子炉運転中に交換できるため、高い燃焼度(単位燃料重量当たりの発熱量)を達成することが可能です。一方、燃料領域に制御棒を挿入すると燃料球が損傷する恐れがあるため、炉心の大型化ができません。ブロック型炉心の最高熱出力が600MW程度であるのに対して、ペブルベット型炉心は300MW程度です。

参考部門・拠点: 高速炉・新型炉研究開発部門

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