平成31年1月24日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

OECD/NEA国際共同研究プロジェクト「福島第一原子力発電所の原子炉建屋および格納容器内情報の分析(ARC-F)」を開始
-事故を探り、安全向上に活かす-

経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)が関係機関と協議しつつ提案した「福島第一原子力発電所の原子炉建屋および格納容器内情報の分析(Analysis of Information from Reactor Buildings and Containment Vessels of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station,:ARC-F)」プロジェクトを新たに開始しました。

本プロジェクトは、OECD/NEAで先行して実施された東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所(以下「1F」という。)事故ベンチマーク解析(BSAF)プロジェクト(注1)を引き継いで、さらに詳細に事故の状況を探り、今後の軽水炉の安全性向上のための研究に役立てることを目的としており、次の3つの項目について議論していきます。

  1. 過酷事故(シビアアクシデント)解析コード(注2)を用いた計算機シミュレーションにより、1F事故がどのように進展し、燃料から放出された放射性物質がどのように移動したかをより詳細に推定すること
  2. 原子炉建屋や格納容器の内部調査などから得られたデータ・情報を集約、管理すること
  3. 残された課題を明らかにし、将来の長期プロジェクトを検討すること

また、本プロジェクトの運営は、原子力機構の安全研究センターが中心となって原子力規制庁との連携、支援の下に実施し、国際的に1F事故に関する情報を共有するための窓口としての役割を果たすとともに、その成果を今後の軽水炉の安全性向上に活かしていきます。

ARC-Fプロジェクトの実施期間は、2019年1月から2021年12月までの3年間で、今後、12か国※の関係機関が協定書に署名する予定です。本プロジェクトに係る最初の会合がOECD/NEA本部(フランス・ブローニュ=ビヤンクール)において1月22~23日に開かれました。

【研究協力の背景と目的】

1F事故後の分析や他の関連活動から得られる情報が国際的に広く関心を集めていることを踏まえ、OECD/NEAの原子力施設安全委員会(CSNI)は原子力規制庁の提案を受け、2013年12月に「福島原発事故後の安全研究検討に関する上級専門家グループ(SAREF)」(注3)を立ち上げました。2年半にわたるSAREFの活動成果として、2016年6月にCSNIにて承認された最終報告書において、1F事故から得られる安全研究課題および1Fプラントの安全な廃止措置の観点で重要な研究課題を抽出し順位付けを行いました。それをもとに、安全研究と1F廃炉の双方共通の関心を有する情報が得られる課題について、従来の知見の整理、ニーズと現状の知識とのギャップ、OECD/NEA/CSNIのプロジェクトとして実施していく候補課題などを取りまとめました。この中で提案された短期プロジェクトの一つが本プロジェクトの原案となっています。

一方、SAREFに先行して2012年11月から実施されていたOECD/NEAの1F事故のベンチマーク解析(BSAF)プロジェクトにおいて、参加機関は各種のシビアアクシデント解析コードにより事故の進展などを推定しましたが、結果にはばらつきが大きく、継続して解析手法を改善する必要性が認識されました。原子力機構はBSAFプロジェクトに実施機関(第1フェーズ)、参加機関(第2フェーズ)として参画し、運営委員会議長(第1および第2フェーズ)を務めました。

またBSAFプロジェクトの運営委員会では、BSAFプロジェクト終了後も、参加機関からは日本の関係機関との間の情報チャンネルを維持することへの期待が示されました。

上記を背景とし、原子力機構の安全研究センターは、BSAFプロジェクトの後継としての役割を加えた「ARC-F」プロジェクトをCSNIに提案し、承認されました。今後も原子力規制庁との連携、支援の下、実施機関として同プロジェクトの運営を積極的に担います。1F事故の分析に基づいたシビアアクシデント解析技術の高度化を通して、シビアアクシデント分野の安全研究を国際的に牽引できる人材の育成に資するほか、1F事故情報分析に関して関係各機関に情報をわかりやすく提供する役割を担います。また、今後1Fからの試料の新たな分析が見込まれる場合には、原子力機構が保有する試験研究施設を有効に活用してまいります。

※12か国
日本、カナダ、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、韓国、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、アメリカ合衆国

【用語説明】

(注1)BSAFプロジェクト

1F事故に特有な現象の理解を深め、モデル化するための方法や解析シビアアクシデントコードを改良し、1号機から3号機の事故の進み方および現状を分析することを目的として2012年に開始されたプロジェクトで、第1フェーズは、2012年11月~2015年3月、第2フェーズは2015年4月~2018年12月の間実施された。現在、第2フェーズの最終報告書がとりまとめられている。

(注2)シビアアクシデント解析コード

原子力施設の主要な機器や系統をモデル化し、原子炉内の熱流動、炉心の溶融の仕方や放射性物質の放出などの主要な現象を模擬して、シビアアクシデントの進み方を総合的に推定するコードやシビアアクシデント時に生じる様々な現象を個別に解析するコードである。

(注3)SAREF

2013年6月のOECD/NEA/CSNIにおいて、日本の原子力規制庁はCSNIが安全研究課題を抽出する機会に関するプロセスを構築することを提案した。これを受け、CSNIは2013年11月に「福島原発事故後の安全研究機会に関する上級専門家グループ(SEG-SAREF)」を立ち上げた。1F事故を教訓とした安全研究課題を抽出し、廃止措置が進められている1Fから得られる情報を基にしたNEA安全研究プロジェクトを提案することを目的とし、12か国から専門家が集まり、原子力規制庁が議長を務めた。2016年6月にCSNIにて2年半にわたる活動の最終報告書が承認された。

参考部門・拠点: 安全研究センター

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