平成30年6月8日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

日米共同実験により加速器駆動核変換システムの研究開発の進展に期待
~高濃縮ウラン等を用いた新たな日米研究協力体制を構築~

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)は、核テロの脅威となりうる核物質保有量の最小化に向けた第3回核セキュリティ・サミット※1における日米首脳の共同声明を機会に、国際的な核セキュリティ強化へ大きく貢献するとともに、原子力の研究開発を進めるための日米間の新たな研究協力体制を構築しました。

今般、この新たな日米協力体制における初めての実験データを得ることができました。原子力機構では、高レベル放射性廃棄物※2の減容化・有害度低減を目的に、加速器駆動核変換システム(ADS)※3の研究開発を進めています。このADSは、鉛ビスマス合金を冷却材として使用することを検討していますが、設計上の信頼性確保に必要な中性子と鉛の核反応断面積※4の精度が十分に検証されていないことが課題となっていました。今回、新たな日米協力体制の下、米国ロスアラモス国立研究所の高濃縮ウラン等および臨界実験装置を用いて、鉛の核反応断面積に関する実験データ※を取得しました。本データは、ADS設計の信頼性を向上させるものであり、今後のADSの研究開発の更なる進展が期待されます。

今後も、高濃縮ウラン等を利用した研究開発には、日米間の協力が不可欠であり、強固な協力の下、米国と共同で必要な研究開発を進めていきます。

※米国の論文誌『Nuclear Science and Engineering』1月号(Vol.189 (2018) 93-99)に掲載されました。

【日米間の研究協力体制】

第3回核セキュリティ・サミット(平成26年3月)において、核テロの脅威となりうる核物質の保有量の最小化に向けた日米首脳の共同声明が発表されました。この共同声明を受け、原子力機構は、平成27年度末に高速炉臨界実験装置(FCA)※5で使っていた高濃縮ウラン等を米国へ引き渡しました。

一方、原子力機構では、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減を目指したADSによる分離変換技術※6の研究開発を進めていますが、研究開発の過程で、高濃縮ウラン等を用いた核反応研究を行うことが必要になりました。そのためには日米間の研究協力体制が重要であり、今回、米国ロスアラモス国立研究所との共同研究を実施することで、核変換技術に関する新たな日米間の協力体制を構築しました。

今回、その一環として、FCAで計画していた高濃縮ウラン等を用いた研究開発について、米国ロスアラモス国立研究所が保有する高濃縮ウラン等および臨界実験装置(図1)を用いた共同研究を実施し、核変換システムの炉心設計の向上に必要な鉛の核反応に関する実験データを取得しました。

図1 米国ロスアラモス国立研究所の臨界実験装置「Comet」
(National Criticality Experiments Research Center (NCERC))

【日米共同実験の概要】

ADSは、高エネルギーの陽子と鉛ビスマス合金との反応(核破砕反応)で大量の中性子を発生させ、その中性子を利用して燃料に含まれるマイナーアクチノイド(MA)を核分裂反応によって他の核種に変換するシステムです(図2)。鉛ビスマス合金は、ADSの燃料を冷却するためにも使うことが検討されていますが、合金の主成分である鉛と中性子との核反応断面積の精度が十分に検証されていないため、ADSの炉心設計における信頼性の確保の観点で大きな課題となっています。

図2 ADS核破砕のイメージ図

この課題を解決するには、さまざまな燃料を使用した実験体系で、高エネルギー中性子と鉛の核反応断面積の精度を評価できるような実験データが必要になります。そこで、米国ロスアラモス国立研究所との新たな共同実験では、同研究所が所有する高濃縮ウランを利用して、ウラン濃縮度(ウラン235と238の割合)が異なる複数の実験炉心で鉛の核反応に関するデータ(核特性)を取得しました。これにより、ADSの炉心設計の信頼度向上に向けて、これまで十分に検証されていなかった鉛の核反応断面積の精度を検証するための実験データを、新たに取得することに成功しました。

【今後の予定】

今後も、高濃縮ウラン等を保有する米国との協力体制により、ADS等を用いた核変換技術に関する研究を続け、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減の研究開発をはじめとした研究開発協力を進めていきます。

【用語説明・解説】

※1 核セキュリティ・サミット

背景、経緯は以下の外務省ホームページに記載があります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku_secu/

※2 高レベル放射性廃棄物

使用済核燃料の再処理で、ウランおよびプルトニウムを分離回収した後に残る、核分裂生成物や超ウラン元素を含む放射能レベルが高い廃棄物です。狭義では、ウランとプルトニウム以外の元素を濃縮した高レベル廃液やガラスに溶融したガラス固化体を指します。

※3 加速器駆動核変換システム(Accelerator Driven System:ADS)

ADSは、加速器と未臨界炉を組み合わせたシステムです。加速器で数百MeVから数GeVに加速した陽子ビームを標的である核破砕ターゲット(重核種からなる)に入射すると、核破砕反応が起きて、大量の高速中性子が放出されます。核破砕ターゲットの周りにMAを主成分とする燃料を設置し、ターゲットから放出された大量の高速中性子を照射すると、MAは高速中性子を吸収して核分裂反応を起こし、主に短寿命または非放射性の核分裂生成物になります。臨界状態、すなわち核分裂の連鎖反応が外部中性子源無しに持続する通常の原子炉とは異なり、ADSではMA燃料を装荷した炉心を常に未臨界(外部中性子源がないと核分裂連鎖反応は持続しない)状態にしておきます。これにより、加速器からの陽子ビーム入射による外部中性子の供給によって未臨界炉心内での核分裂連鎖反応を維持することができますが、ビームを止めれば直ちに連鎖反応は停止するので、安全性の高いシステムとすることが期待できます。

ADSは、常に外部からの中性子の供給無しには核分裂連鎖反応が維持できない未臨界状態に維持します。ADSを運転する場合には、加速器からの陽子ビームを使って中性子を供給することで核分裂の連鎖反応を維持します。したがって、ADSの運転には、体系の未臨界度、すなわち臨界からどれくらい離れているかの尺度を精度良く把握することが必要となります。

※4 核反応断面積

物質に入射した粒子が物質中の原子核と反応を起こす確率。入射粒子にはさまざまなものがありますが、原子炉物理では専ら中性子を対象とします。中性子と原子核との反応には吸収、散乱、核分裂等があり、それぞれについて断面積が定義されています。

※5 高速炉臨界実験装置(FCA)

原子力機構のFCA(Fast Critical Assembly)は、我が国唯一の高速炉臨界実験装置で、高中性子エネルギー領域の原子炉の研究を目的とする施設です。小型・低出力の実験装置で、核データ評価に必要な基礎的な実験データの取得や炉物理実験的手法の開発に重要な役割を担っています。これまでに、高濃縮ウランおよびプルトニウムを含む種々の研究用核物質を利用したさまざまな実験で高速炉開発へ大きく貢献してきました。

※6 分離変換技術

分離変換技術は、使用済燃料の再処理工場で発生する高レベル放射性廃棄物の中の元素を、元素の性質に応じていくつかのグループに分離し、そのうち放射性毒性が強く、長期にわたって有害度を支配するMA(使用済み燃料中に含まれるアクチノイドのうち、ウランおよびプルトニウムを除く、ネプツニウム、アメリシウムおよびキュリウム等の元素。MAの放射性同位体の中には、半減期が数万年以上のものが存在し、放射性廃棄物の処理が大きな課題となっている)を、高速炉や加速器を用いて、高エネルギー(数10keV~数MeV)の中性子と核的に反応をさせ、短寿命核種あるいは安定核種に核変換する技術です。分離変換技術は、廃棄物処分の将来有望な技術オプションとして、 日本をはじめ世界のさまざまな国で基礎的な研究開発が行われている最先端の技術です。


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