【背景と経緯】

包括的核実験禁止条約(CTBT)1)に係る国際監視制度(IMS)2)の一環として、地球規模での放射性希ガス(キセノン)観測ネットワークによる観測が行われており、国内では高崎観測所(高崎市)において2007年から観測を行っています。放射性キセノンは地下核実験の検知/同定に重要な役割を果たしますが、核実験以外でも放射性キセノンの放出源となる医療用放射性同位元素製造施設や原子炉が世界中にあります。核実験の検知の精度を高めるためには、平常時の放射性キセノンバックグラウンド挙動を把握し、これらの施設からの放出と核実験からの放出を識別可能とすることが重要となります。条約に基づく放射性キセノンの観測所は世界40カ所ですが、近年の研究から、放射性キセノン観測による核実験検知能力の強化のためには更に多くの観測所が必要との認識が専門家間で共有されつつあります。そこで、CTBT機関(CTBTO)準備委員会3)は、既存の観測ネットワークを補完するため、各国と協力し、付近に観測所がない複数地域で短期間(1年程度)の放射性キセノン観測を実施してきました。日本政府は、度重なる北朝鮮の核実験及びCTBTOのIMS整備の推進を奨励した2016年の国連安保理決議の採択を踏まえ、CTBTOの北朝鮮等による核実験の検知能力を強化するため追加的に拠出を行いました。CTBTOは、この拠出を活用し、移動式観測装置を用いた希ガス観測プロジェクトを当面の間(既に観測施設のある)高崎市以北の北日本で実施することになり、放射性キセノン観測の経験と実績のある原子力機構が実施協力機関として参画することになりました。

【共同観測プロジェクトの内容】

原子力機構とCTBTOとの共同観測プロジェクトでは、現地調査結果に基づき決定される観測地2カ所に移動型希ガス観測装置(TXL: Transportable Xenon Laboratory)4)を設置し、大気中の放射性キセノン(131mXe、133Xe、133mXe、135Xe)の観測を行います。TXLは、大気捕集→キセノンの精製分離→計測→データ送信といった一連の動作を全自動で行う高崎観測所と同型の観測機器を使用しており、得られたデータは原子力機構とCTBTO間で共有され解析評価されます。観測期間は1~2年で、今年中の観測開始を予定しています。

【今後の展開】

本共同観測プロジェクトにより、東アジア地域における放射性キセノンのバックグラウンド挙動についての理解が深まれば、核実験、特に地下核実験をより正確に検証することができます。また、プロジェクトを通して、可能性のある核実験とその他の放出源からの放射性キセノンを識別する分類スキームや核実験と間違えないように放出源の位置を特定する技術などの向上に資する科学的な情報をCTBTOを始めとする放射性キセノン監視コミュニティへ提供できれば、信頼性の高い国際検証体制の確立に貢献できます。当センターでは、こうした科学的取組みにより、国際的な核不拡散体制の構築に貢献しています。

CTBT放射性核種監視観測所ネットワーク
(紺の丸点は放射性キセノンの観測所を示す)

国内の放射性核種監視観測所


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