【研究開発の背景と目的】

高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では、深度300m以深の地下環境において大規模坑道群の建設・操業・閉鎖が行われます。その安全性の評価では、物質の閉じ込め能力に関わる坑道閉鎖後の物質の移動特性(地下水の流動や化学環境、元素の挙動や移動経路など)が重要な考慮事項となります。

本研究では、坑道閉鎖後の物質の移動特性を理解することを目的として、岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所において、深度500mの花崗岩中に建設された冠水坑道(図1:幅5m、高さ4.5m、長さ約45m:総容量約900m3)に止水壁を構築して閉鎖し、周辺の地下水によって冠水した後、約1年間にわたり定期的に、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性元素と化学的な性質が似ている天然の希土類元素の挙動を観察しました。このような閉鎖された坑道を冠水して物質の移動特性を観察する試験は、世界でも初めてです。

なお、冠水坑道の壁面には坑壁の保護のため吹付コンクリートが施工されていますが、実際の地層処分場でも坑道建設~閉鎖時に坑壁の保護や坑道に湧出する地下水を抑制するためにセメント系の材料が使用され残置される場合があると考えられます。

図2

図1 瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウト(左側)と冠水坑道の模式図(右側)

【研究の成果】

閉鎖された坑道内の地下水には、大きさが0.1μm~数百μmの様々な種類の微細粒子(大きさによりコロイド粒子、懸濁物粒子と呼ばれます)が観察されました(図2)。希土類元素は、その数十%が主に炭酸塩鉱物からなる微細粒子(炭酸塩粒子)に付着して存在しており、炭酸塩粒子が地下水中の希土類元素の挙動に影響を与える重要な因子の一つであることが判明しました。なお、炭酸塩粒子の起源は、吹付コンクリートや岩石中に存在する炭酸塩鉱物と推察されます。炭酸塩鉱物は、地下深部において一般的に観察される鉱物です。

約1年間にわたる観察の結果、閉鎖された坑道内においては、地下水中に溶けた希土類元素及び微細粒子に付着した希土類元素の濃度が、時間とともに有意に低下することが確認されました(図3)。

坑道内は、炭酸塩鉱物が地下水に対して過飽和の状態(炭酸塩鉱物が地下水に溶けきれずに沈殿する状態)にあるため、希土類元素が付着した炭酸塩粒子が凝集・沈殿することで地下水から除去されていると考えられました(図2)。また、地下水に溶存する希土類元素は、熱力学解析により主に炭酸イオンと結合した化学形で存在していると考えられました。このような化学形の元素は、炭酸塩鉱物の中に取り込まれやすい特徴があります。一方で、坑道壁面の吹付コンクリートは、地下水と反応してその表面に炭酸塩鉱物を形成することが多く、地下水に溶存する希土類元素は吹付コンクリート表面の炭酸塩鉱物に沈着していると推測されました。

図3

図2 閉鎖された坑道内で確認された様々な微細粒子
(微細粒子は、ケイ素(Si)を含む長石や粘土鉱物などのケイ酸塩鉱物、鉄鉱物、炭酸塩鉱物、有機物などから構成されていました。また、人為由来の微細粒子として、金属資材表面のメッキに由来すると考えられる硫化亜鉛からなる粒子も観察されました。様々な粒子のうち、希土類元素は主に炭酸塩粒子に含まれており、時間とともにその数が減少しました。)

図4

図3 閉鎖された坑道内で確認された希土類元素濃度の減少

【今後の期待】

冠水坑道内で確認された希土類元素濃度の減少メカニズムは、岩盤中で一般的に観察される炭酸塩鉱物や坑道建設時に使用されるセメント材料により普遍的に起こり得るものです。そのため、冠水坑道において希土類元素が移動しにくい環境が形成されたように、実際の地層処分場においても坑道を閉鎖した際に、放射性元素が移動しにくい環境が形成される可能性が高いと考えられます。

【論文掲載情報】

雑誌名:Applied Geochemistry, 82, 134-145 (2017)

論文タイトル:Characterization of rare earth elements (REEs) associated with suspended particles in deep granitic groundwater and their post-closure behavior from a simulated underground facility.

著者:岩月輝希、宗本隆志、久保田満、林田一貴、加藤利弘

【用語解説】

・希土類元素:別名「レアアース」。原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までのランタノイド(ランタン系列元素)と原子番号21番のスカンジウムと原子番号39番のイットリウム(Y)を加えた計17種類の元素の総称。

・コロイド粒子:一般的に大きさが1μmより小さい粒子

・懸濁物粒子:水中に浮遊する粒径2mm(2,000μm)以下の不溶解性固体の微粒子


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