【研究開発の背景と目的】

人形峠には、ウランの製錬、転換、濃縮などの核燃料取扱施設があります。これらの運転・解体により発生したウラン廃棄物には、金属解体物、ウラン吸着材(アルミナペレット、フッ化ナトリウムペレット)や廃水処理の過程で生じた中和沈澱物など多種多様な内容物があり(図1参照)、その化学的性状も多様です。

原子力機構は、これまで廃棄物中のウラン量を定量する技術開発を進めていましたが、今般、基礎工センターが開発してきた、アクティブ中性子測定法の一種である高速中性子直接問いかけ法(FNDI法)を用いた非破壊測定装置(図2参照)を人形峠に導入し実用性を確認しました。

本装置には、原子力機構が実施する核燃料物質の計量管理2)を目的とした計測と、保障措置3)のためIAEAが実施する査察(検認)活動のための計測が期待されています。このため、実用化に際しては、ドラム缶に収納されている内容物の種類に関わらず、実用的な精度と測定時間で、ウラン量を定量できる性能が必要とされました。

図1 (a)金属
図2 (b) アルミナペレット
図3 (c)フッ化ナトリウムペレット

図1 多種多様な内容物が収納されたウランを含む実廃棄物ドラム缶例

図4

図2 原子力機構(人形峠)に設置したFNDI法による非破壊測定装置(JAWAS-N)

【研究開発の手法】

(1)FNDI法とデータ評価法

FNDI法(図3参照)は、ウランに極短い時間幅で、少量の中性子を照射し、ウラン235の核分裂を誘発させた結果、放出される僅かな量の中性子を計測して、ウラン235の質量を定量する手法です。基礎工センターでは、ウランから放出された後、直ぐに消滅する高速中性子の量がウラン235の総量と比例することと、この高速中性子の消滅時間5)が内容物に依存することに着目して、多種多様な内容物でも、ドラム缶内に含まれるウラン235の質量を定量できる評価式(消滅時間に対応したウラン235単位質量あたりの核分裂中性子数を実験的に求めた較正式:以下「データ評価法」という)を新たに開発し、特許を出願(申請中:特開2014-174123)しました。

(2)データ評価法の検証

原子力機構は、開発したデータ評価法を検証するため、鉄材、フッ化ナトリウム(NaF)、アルミナ等の内容物を用いた模擬体による試験を実施し、核分裂中性子の総数と中性子の消滅時間を詳しく調べました。その結果、中性子の消滅時間とウラン235単位質量当たりの核分裂中性子数との間に、一定の相関関係があり、データ評価法が当てはまることが実証されました。

このデータ評価法を用いることにより、ある中性子消滅時間のウラン235単位質量当りの核分裂中性子数(較正値)を求め、測定された実際の核分裂中性子数を、その較正値で除することでウラン235の質量が定量できます(図4参照)。これにより、多種多様な内容物が封入された、ドラム缶内の総ウラン量の定量が可能となりました。なお、総ウラン量の定量には内容物のウラン濃縮度が必要です。

図5 図3 測定手法(FNDI法)の説明図
図<6></6> 図4 中性子消滅時間とウラン235単位質量当りの核分裂中性子数

【研究開発の成果】

原子力機構は、人形峠の製錬転換施設内に保管されている金属類、ウラン吸着剤であるフッ化ナトリウムペレット、同アルミナペレット、廃液処理吸着剤であるフッ化カルシウム中和澱物、未精製のスクラップ四フッ化ウラン粉末等の入った1000体以上のウラン廃棄物(200リットルドラム缶)を、非破壊測定装置で測定しました。その結果、計量管理に用いることができる精度で短時間に総ウラン量が測定できたことから実用性が実証されました。

この装置は、国際原子力機関(IAEA)から計量管理用として性能の高さが評価され、2016年6月には、保障措置の査察(検認)活動を目的とした測定装置としての運用が認められました。

【今後への期待】

この非破壊測定装置の実用化には、計量管理の効率化と計量管理行為の透明性の向上が期待されるとともに、IAEA査察(検認)活動への国際的な貢献が期待されます。


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