【参考資料】

・加工誘起マルテンサイト変態

SUS304は、無負荷状態においてfcc 構造のオーステナイト相(γ相)の非磁性体です。しかし、引張試験などの冷間加工を施すと、γ相の一部がbcc構造のマルテンサイト相(α’相)へ変態し、強磁性となります。このような変態は加工誘起マルテンサイト変態(Strain Induced Martensitic Transformation)と呼ばれています。

・ローレンツ透過型電子顕微鏡

透過型電子顕微鏡を用いて強磁性体試料の磁区構造を観察する手法です。強磁性体に入射した電子は磁化の方向に依存するローレンツ力を受けて進行方向を変えます(偏向します)。隣り合う磁区では異なる偏向を受けるため、隣り合う磁区にコントラストが生じます。フレネル法(defocus法)では隣り合う磁区から異なる偏向を受けた電子線の重なりにより、磁区境界は明線または暗線として観察されます。一方、フーコ法(in-focus法)では隣り合う磁区を通過した透過ビームが後焦面で互いに少しずれた位置に偏向されるため、その一方を選んで結像します。選ばれた透過ビームに対応する磁区の像は明るく、他方の透過ビームに対応する磁区の像は暗く見えます。通常の透過電子顕微鏡では、試料は対物レンズの強い磁場中(約2テスラ)に置かれるので、試料全体が単一磁区になってしまいます。磁区観察には試料位置にほとんど磁場がかからない専用の対物レンズを用いる必要があります。

・欠陥・転位

金属材料は、加工を施すとひずみが生じ、原子配列の乱れた格子欠陥=ここで言う「欠陥」が生じます。原子配列のずれが線状になっている欠陥を「転位」と言います。さらに、欠陥の形状が面状のもの「面欠陥」と言います。fcc構造のSUS304に見られる積層欠陥は代表的な面欠陥であり、本研究で見出されたfcc構造の(111)面の積層状態ABCABC・・・からABABAB・・・へ変化したε相の構造も面欠陥の一種です。

・双晶(ツイン)

双晶とは元の結晶と鏡面対称の関係にある結晶のことで、結晶構造は元の結晶と同じで方位のみが異なる関係にあります。fcc構造の場合、双晶は(111)面を積層面として、積層面と垂直な方向が互いに{110}方向の関係になっている結晶を言います。

【参考資料】

題名:Presence of ε-martensite as an intermediate phase during the strain-induced
transformation of SUS304 stainless steel
(和訳)SUS304ステンレス鋼の加工誘起変態において中間相として生成するεマルテンサイト相

著者名:Masaharu Hatano, Yoshiki Kubota, Takahisa Shobu, and Shigeo Mori

雑誌名:Philosophical Magazine Letters

DOI:10.1080/09500839.2016.1190876


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