【用語説明】

1)コンクリートの欠陥(脆弱部)

コンクリート内部では、経年変化に伴い(あるいは施工初期から)様々な要因により「欠陥(脆弱部)」が発生する可能性があります。例として、補足図1にトンネルコンクリートに関係の深い脆弱部を記載しました。コールドジョイントは、コンクリートが一度固まった後に再度コンクリートを流し込んだことにより、コンクリートが一体化しなかった部分を指します。ジャンカは、施工時に材料の撹拌が不十分であったために材料の分離が生じてしまった状態を指します。これらは、コンクリート内部に微小な空洞があることに相当しますので、ヒビの発生、腐食等が通常の部位よりも早く進行します。このヒビが閉合することにより、コンクリート内部に「浮き(板状の空洞)」が生じることになります。「浮き」が生じると、表面付近と内部のコンクリートの一体性が失われるため、最悪の場合、コンクリートが剥離してしまいます。

図6

補足図1) トンネルコンクリートに発生する様々な欠陥。

2)レーザー欠陥検出法

「レーザー欠陥検出法」は、「打撃」と「耳で聞く」を共にレーザーで行う、遠隔・非接触による打音検査の一種であると言えます。表面を振動させる「振動励起レーザー」、振動を計測する「レーザー計測システム」から構成されます。レーザーを用いてコンクリート表面を振動させるには、短い時間内(およそ1億分の1秒)にエネルギーを集中させることができる「パルスレーザー」が適しています。パルスレーザーがコンクリートに吸収され表面の温度が急激に上昇することで衝撃波が起こり、表面が振動します。また、確実に表面を振動させるには、ある程度の広い範囲(直径5ミリ程度)に渡ってレーザーを当てることも必要となりますので、パルス当りのエネルギーが高い(1ジュール以上)ことも求められます。コンクリートの振動は非常に微小であるため、これを計測するためにレーザー干渉計が用いられます。レーザー干渉計では、連続発振しているレーザーを二つに分け、一方を計測対象(コンクリート)に照射し、もう一方を参照光として用います。コンクリート表面で反射された光(信号光)は、表面の微小振動により周波数が変化します。信号光と参照光を重ね合わせることで、信号光と参照光の差分、すなわちコンクリートの振動周波数のみを取り出して計測することができます。内部に欠陥のある場合は特定の振動周波数が強くなりますので、このことから欠陥の有無を判定することができます。

3)打音法

「打音法」はコンクリート建築物のみならず様々な分野で利用されており、内部の状態を知るための最も一般的な手法であると言っても過言ではありません。これは、ハンマーにより表面に軽く打撃を加えることで表面を振動させ、その振動により発生した音を聴いて内部の状態を診断する手法です。表面付近に空洞や、不連続な面がある場合には、その境界で振動の波が反射して元の振動の波と重なり合うために、特定の周波数の振動が強くなり、その結果、発生する音にも変化が生じます。打音検査員は、この音の変化から内部の状態を推測します。

4)レーザー媒質、光増幅器

「レーザー媒質」とは、入ってきた光を何倍にも強くして(増幅して)出力する「レーザー作用」を持つ物質です。本研究で使用するレーザー媒質は、棒状に加工したネオジムを添加したヤグ(YAG: Yttrium Aluminum Garnet)結晶で、周囲からランプ光源(励起源)でエネルギーを与えているときのみ、波長1ミクロン(千分の1ミリ)の光を増幅して出力します。 「光増幅器」は、レーザー媒質、励起源、冷却機構等から構成されます。励起源を高速動作させることでレーザーも高速動作しますが、励起源からの熱の影響等によりレーザー媒質が歪み、レーザーの品質が低下するため、高速動作する光増幅器では、特に冷却機構の設計が重要となります。

5)ガルバノ鏡

「ガルバノ鏡」は、高感度で電流を計測する検流計(ガルバノメーター)の原理を利用した回転機構を持つ鏡です。内蔵した電磁石に流す電流量によって回転角を制御できるために、高速かつ正確な走査が可能です。ガルバノ鏡を2枚組み合わせることで2次元的な高速掃引が可能となります。

6)パルスレーザー

レーザーは、時間的に連続して発振する「連続(発振)レーザー」と、短い時間間隔で点滅を繰り返す「パルス(発振)レーザー」に分類されます。パルスレーザーでは、短い時間内にエネルギーを集中させることで小さなレーザー装置でも物質に大きな衝撃を与えることが可能なため、レーザーを用いた材料加工等に用いられています。


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