【研究開発の背景と目的】

NB装置は、プラズマに原子状ビームを入射し、プラズマを数億度まで加熱すると共に定常状態を維持する装置です。イオン源でイオンを生成し、静電的に100万ボルトまで加速したイオンビームを生成し、その後ガスで充満した容器を通すことによりイオンの電荷を中和して電気的に中性な原子ビームに変換し、プラズマに入射します(図1)。この加熱方式は、プラズマ性能の向上に大きく寄与するものであり、イーター計画においても、NBにより、核融合燃焼の試験を実施します。

図1

図1 中性粒子入射加熱(NB)装置の模式図

イーターNB装置では、高出力・長時間(100万電子ボルト、16.5メガワット、1時間)の性能が要求されており、その開発を原子力機構が世界に先駆けて実施しています。また、同計画では、NB装置の開発が最重要課題とされていることから、実機に先立ってイタリアに実機試験施設を開発し、その性能を確認することになりました。この試験装置(イーター中性粒子入射加熱装置実機試験施設、NBTF)は、イタリアのRFXコンソーシアムに建設中です。

NBTF計画では欧州と日本で機器の開発と製作を分担しており、原子力機構は、装置の主要部である100万ボルト電源機器の開発を行ってきました(図2)。今回、建屋を貫通できる送電管の開発が必要となりました。このため新たに、20万ボルトから100万ボルトの5つの異なる電位の電流を同時に1本の送電管で給電できる100万ボルトの送電管を開発しました。

図2

図2 NBTFの超高電圧電源の機器配置及び機器開発と製作分担

従来の高電圧送電線の場合50万ボルトが最高電圧であり、またその絶縁には70~90m程度の高さの鉄塔及び送電線間に数十mの距離が必要です。絶縁距離の観点と、イーターでの建屋壁貫通部を考えると直径20mの円筒形送電管が必要となります。これでは、決められた敷地領域や建屋を貫通して送電する(図2)ことが困難となるために、イーターNB装置には適用できないという大きな問題に直面しました。また、送電管は全長100mに及ぶため、導体の発熱による伸びや地震による変位で機器自体が破損したり、機器が建屋に損傷を与える危険がありました。

【研究の手法】

図3

図3 高電圧電力導体の配置

図4

図4 導体接続部

図5

図5 電送管及びその支持脚

原子力機構では、20万ボルトから100万ボルトまでの5つの異なる導体を絶縁性能に優れた高圧6気圧の六フッ化硫黄絶縁ガス(SF6)を封入した容器に配置する構造を考案しました。これによって、100万ボルトの送電系は、直径2mの円筒管とすることができました。またこの円筒管を接地電位として、容易に建屋壁などを貫通することができるように工夫しました。また、本機器内で伸びや変位を吸収する構造を持たせることを実現し、問題を解決しました。

5種類の異なる電圧の導体の配置については、それぞれの導体間に電界が集中しないようにする必要があり、100万ボルトの導体ばかりでなく、低い電圧の導体の配置も含めて電界の集中を防ぐように最適化しました。加えて、接地電位である送電管の内底面の微小金属よる絶縁破壊についても考慮しました。このとき、詳細構造まで考慮した3次元電界解析を実施し、内部構造の配置を決めました(図3)。また、工場内で100万ボルトの1.2倍となる120万ボルトの電圧引加試験を実施し、実際に十分な耐電圧性能があるか確認しています。

さらに運転時の発熱による導体や送電管の伸びや地震による変位については、機器の性能劣化、機器の破損、さらに建屋の破損の抑制が課題でした。そこで、まず、導体の発熱、屋外での直射日光による発熱及び絶縁ガスの循環による除熱を3次元熱解析で検討し、各部品や送電管の温度上昇を見積もり、各部の熱伸び量を同定しました。また、3次元機械解析を実施し、地震時の変位量を調べました。その結果、最大変位は、送電管の長手方向に最大40mmもあることが分かりました。そこで、これら変位を機器内で吸収するために、内部に置かれた高電圧の複数の導体は、長手方向に2m毎に分割して、伸びを吸収するソケットで接続する工夫をしました。これにより電流を流しながら熱伸びを吸収できるようになり、問題を解決しました(図4)。送電管については、送電管の支持脚にスライド構造を考案して、機器が伸びることができるようにし、それに対して、アコーデオンと同じ構造で伸びを吸収できる直径約2m、長さ1.4mのベローズ管を挿入して、その伸びを吸収できる構造としました。その結果、建屋や機器自体の健全性に影響を与えることなく、全長100mに対して最大40mmの伸びを許容できる構造を実現しました(図5)。

【得られた成果】

製作した100万ボルト送電管は、必要な耐電圧試験を実施し、イーターに必要な性能を満足していることを確認するとともに、機器自身で伸びや変位を吸収できる、従来技術で必要なサイズの1/10のコンパクトな超高電圧複数導体送電管の開発に世界で初めて成功しました。この開発の成功により、イーターに先行してイタリアのRFXコンソーシアムに建設中のNBTFに設置するため、既に開発した超高電圧直流電源機器とともに、イタリアへの搬出が開始され、本年12月より設置工事が始まります。超高電圧直流電源の開発を完了したことにより、外部加熱によるイーターの核融合燃焼の実証につながる大きなマイルストーンを達成しました。また、今回開発した電送技術は、核融合だけでなく、産業応用として医療・物理・材料の分野で利用される高エネルギー大電流加速器の分野での活用も期待されます。

【今後の予定】

完成した送電管は、すでに製作を終了している超高電圧電源機器と併せてイタリアへ輸送され、本年12月から据付け工事が開始されます。日本が調達を行う機器の製作を順次進めており、完成次第イタリアへ輸送し、欧州側機器と組み合わせてNBTFでの確認試験を行う予定です。


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