【研究開発の背景と目的】

イーター参加極間で国際合意されたイーター用機器の製作分担に基づき、日本は全49本のCS導体の製作を行い、米国はこれらを用いてコイルを製作します。CSコイルは、イーターのプラズマ中に電流を流してプラズマ閉じ込め磁場を作るための超伝導磁石で、高磁場(13テスラ)中で大電流(40キロアンペア)の運転を行う大型で高性能な超伝導磁石です(図1)。CS導体は、576本のニオブ3スズ(Nb3Sn)超伝導線と288本の銅線からなる撚線が、ジャケットと呼ばれる49mm角の角形ステンレス鋼管に挿入された構成で、平成24年から製作を開始しており、逐次完成品を米国へ発送しています。ニオブ3スズ超伝導導体が超伝導状態を維持できる上限温度が、磁場、電流及び歪み状態により変化することから、製作にあたっては、スイスにある試験装置を用いて、一部の条件を模擬した磁場、電流及び歪みを印加し、上限温度が設計条件を満足することを確認しました。

図1 イーター超伝導磁石システムと中心ソレノイド(CS)・コイル

CS導体に用いられる超伝導体(ニオブ3スズ)の性能(超伝導状態を維持できる上限温度)は、磁場、電流及び歪みにより変化することが知られています。CS導体を極低温へ冷却すると、ジャケットの熱収縮のため、超伝導体は圧縮歪みを受け、圧縮歪みを受けない場合と比較すると上限温度は低下しています。一方、CSコイルの運転においては、電磁力により導体を長手方向に引っ張る歪みが発生し、これは熱収縮による圧縮歪みを緩和し、上限温度を上昇させます。模擬試験では、サンプル形状から導体長手方向の歪みが発生せず、イーターの運転条件と異なっており、イーターの運転条件下では、模擬試験結果から予測される上限温度より更に上昇することは分かっていましたが、どの程度まで上昇するかは正確には分かっていませんでした。このたび、那珂核融合研究所にあるイーターの運転条件下で試験できる世界で唯一の装置を用いて、上限温度を精密に評価しました。

【研究の手法】

那珂核融合研究所が所有するCSモデル・コイル試験装置は、平成4年から平成13年まで実施されたイーター工学設計活動において開発され、イーターの運転条件下で試験できる世界で唯一の装置です。試験装置の一部である超伝導コイル(CSモデル・コイル)は、直径約1.6mの空間に高磁場(最大13テスラ)を発生します。この試験装置に合わせて、CS導体を用いたCS試験コイル(CSインサート)を製作しました。CS試験コイルは、長さ約40mのCS導体を、直径約1.5mで1層9ターンに巻き、コイル化したものです。これをCSモデル・コイル試験装置に組み込み、今年2月末に極低温への冷却を開始し、7月末に試験を完了しました。CS試験コイルとCSモデル・コイル試験装置の概要を図2に示します。また、模擬試験装置とCSモデル・コイル試験装置の違いを図3に示します。

図2 CS試験コイルとCSモデル・コイル試験装置

図3 模擬試験装置とCSモデル・コイル試験装置

【研究の手法】

イーター運転条件(磁場13テスラ、電流40キロアンペア)において導体性能(上限温度)を測定し、その性能は零下約266.5℃(6.7ケルビン)で、設計条件である零下約268℃(5.2ケルビン)に対して1.5度高い温度まで超伝導状態を維持できることを明らかにし、これまで再現が難しかった歪み状態を含めたイーターの運転条件下においてCS導体が十分な性能を有することを実証しました。模擬試験結果から推定される性能より更に約0.5度高いことを明らかにしました(図4)。

超伝導線における上限温度と磁場、電流及び歪みの関係式はありましたが、導体の長手方向の変形と撚線中の超伝導体の歪みの関係を示す試験結果がありませんでした。今回、電磁力によって導体長手方向に発生する変形が上限温度に与える影響を試験することで、導体長手方向の変形と超伝導体の歪みの関係が判明し、これによりイーターの運転におけるCS導体の上限温度を正確に予測できるようになりました。今回の結果は、プラズマ電流を流すために不可欠なCSコイルの安定な動作を通じて、イーターの安定な運転に大きく貢献する成果であり、イーターの成功が期待されます。

図4 CS導体の性能

【今後の予定】

本成果は、10月に韓国で開催される超伝導応用分野で最大級の会議である国際磁石会議で報告されます。また、イーター機構及び米国と協力しつつ、得られたデータの詳細な解析を行い、コイルの運転に役立てていく予定です。


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