【用語説明】

1) 強磁性半導体

半導体に磁性元素を添加することによって作製します。半導体としての性質を有し、また磁石としての性質も持ち合わせているために新しいデバイスとしての応用が期待されています。

2) キュリー温度

磁石などの強磁性体において、磁石としての性質(強磁性)が失われる温度。キュリー温度以上では常磁性となります。例えば、鉄では770℃です。

3) 磁性元素

鉄やマンガン、コバルトなど、単体で塊となったときに磁石としての性質を示す元素。

4) 酸化チタン(TiO2)

日焼け止め、白色顔料などとして昔から使用されてきました。また、水が触れている状態で光を受けると強い酸化力を促すため、抗菌素材としても使用されています。磁性元素を添加することにより強磁性半導体となることが知られたのは比較的最近のことです。

5) 蛍光X線ホログラフィー

通常の写真とは異なり、ホログラフィーは物体の立体像を記録・再生することのできる技術です。偽造防止のため、一万円札やクレジットカードに印刷してあり、社会にも広く普及している技術です。原理について下図に示しますが、通常の光学ホログラフィーの場合には、レーザーなどの干渉性の良い光源を用い、ある散乱物(下図ではハート)に照射します。その散乱物によって光は散乱され物体波となります。物体波の位相(波の山・谷の位置に関する情報)は、散乱体の奥行きに関する情報が含まれていますが、物体波そのものを観測しただけでは、位相の情報は失われてしまいます。ホログラフィーでは位相を記録するために、光源から出る光(参照波)を物体波と干渉させます。その干渉パターンを記録したものがホログラムとなります。散乱物を再生させる場合には、再生光をホログラムの反対側から当てれば良いのです。

図4
 

蛍光X線ホログラフィーも基本的には、光学ホログラフィーと同じ原理を用いています。蛍光X線とは、あるX線を原子に吸収させた後に放出されるX線のことで、それぞれの元素に固有の波長をもちます。図に示してあるように、ある原子から放出された蛍光X線は近くの原子によって散乱され、それが物体波となります。物体波は蛍光X線発生原子からの参照波と干渉しホログラムを形成します。そのホログラムパターンは、X線カメラで観測できます。像の再生については、再生光を利用できないので計算機を用いて行います。本手法は特に、単結晶中の微量不純物元素周りの3次元的局所構造評価に有効であることが実証されています。

6) 亜酸化物

Rb9O2(下図)やCs7Oなどの金属原子の数に比べ酸素が極端に少ない酸化物のことを指します。亜酸化物は通常の酸化物ができる反応過程の中間体であり、金属が酸素に十分にない環境に晒された場合に見られることがあります。

図5

7) 機能発現サイト

材料の多くは母体の主要物質のみで機能を生み出すわけではなく、半導体などの例から分かるように、不純物を添加することによって機能を発現するものが殆どです。(シリコンでは、ボロンやリンなどを添加します。)本報告で用いた「機能発現サイト」とは、不純物及びその数原子先の局所領域を指します。機能発現サイトの構造は材料機能と直接関わるため、その解明は極めて重要です。

8) X線吸収微細構造法

すべての物質は、局所構造を反映したX線の吸収現象を示します。その吸収量を広いX線エネルギーにわたって精密に捉えることによって、物質の局所的な構造情報を得ることが可能となります。

9) 第一原理計算

原子配列モデルを立て電子状態計算を行う理論的手法。最適な構造や磁性などの物理的性質の予測を行うことができます。

10) 大型放射光施設SPring-8

兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高クラスの放射光を生み出す施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速(SPring-8では80億電子ボルト: 8 GeV)し、磁場によって進行方向を曲げたときに発生する、強力な電磁波のことを呼びます。

11) ルチル構造

金紅石とも呼ばれる二酸化チタンの結晶構造のひとつ(下図)。

図6

12) 化学量論組成比

例えば二酸化炭素CO2(1対2)や一酸化炭素のCO(1対1)のように単純な整数比率による組み合わせ。ここでは、酸素がマイナス2価をもつため、炭素はプラス4価もしくはプラス2価の価数をもち、全体として0価(中性)になるという考えに基づきます。亜酸化物は、酸素の数に比べ金属原子の数が非常に多いために、価数が整数値をとり得ず、単純な化学量論的な考えは適用できません。


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