【用語説明】

1) エネルギー回収型リニアック

超伝導加速器を用いて電子を高周波加速し、高エネルギー電子ビームを放射光発生に利用した後、同一の加速器を「減速器」として動作させ、電子ビームエネルギーを高周波エネルギーとして回収し、後続電子の加速に再利用する技術である。高周波で動作する超伝導加速器では、電子を入射するタイミングを選ぶことで 加速、減速のどちらも可能であることを利用している。具体的には図10に示すように、電子入射器からの入射(1回目の入射)では、電子を高周波の山に合わせることで電子を加速し、LCS発生を終えて周回軌道を通ってきた電子の入射(2回目の入射)では、電子を高周波の谷に合わせることで電子を減速する。英語名 energy-recovery linac からERLともよばれる。本研究の対象であるLCS以外にも、シンクロトロンX線放射光、大出力自由電子レーザーとしても研究開発が行われている加速器である。

図10

図10: エネルギー回収の概念図。超伝導加速器の中には、高周波電場の波が走っている。電子が1回目に入射する場合には、波に乗って加速される位相で入射されエネルギーを得る。2回目に入射される場合には、波によって減速される位相で入射され、電子はエネルギーを失う。失われたエネルギーは超伝導加速器内部の電場に蓄積され、後続電子の加速に再利用される。

2) 大強度ガンマ線、 3) 高輝度(小型)X線

可視光線や紫外線、赤外線などと同様に光(電磁波)の一種。光のエネルギーがおおむね1キロ電子ボルト(1keV)以上の電磁波をX線、1メガ電子ボルト(1MeV) 以上をガンマ線と呼ぶ。これらの電磁波はエネルギーが高いことから、物質を透過する能力が強く、イメージング、ガン治療、放射性滅菌等に利用されている。ちなみに可視光のエネルギーは1.7~3.3電子ボルト(1.7~3.3 eV)程度。
X線やガンマ線を含む光源の性能を表す指標として、強度と輝度がある。強度は、単位時間あたりの光子の発生数でありフラックスともいう。輝度は強度を光源のサイズと発散角で割った値である。高輝度の光源は小さい試料に多くの光を集光することができる。

4) レーザー・コンプトン散乱

X線やガンマ線が物質に入射するとき、物質を構成する原子に含まれる電子で散乱され、進行方向とエネルギーを変える現象をコンプトン散乱という。コンプトン散乱を受けたX線、ガンマ線は、電子にエネルギーの一部を与えるので、散乱にともなってエネルギーが小さくなる(波長の長い光に変わる)。
光速近くまで加速した電子とレーザー光が衝突する場合にも同様の散乱現象が起こるが、このとき、レーザー光は電子からエネルギーを受け取り、大きなエネルギーを持った光、すなわち、X線やガンマ線に変わる。これをレーザー・コンプトン散乱(または、逆コンプトン散乱)という。
レーザー・コンプトン散乱の最初の実験は、メイマンによるルビーレーザーの発明(1960年)から間もない1965年に行われ、エネルギー6GeV の電子ビームと波長694.3nmのルビーレーザーの衝突散乱で0.85GeVのガンマ線ビームを発生したものです。

5) レーザー蓄積装置

反射率の高い鏡を組み合わせた光路に外部からレーザーを入射して、内部に蓄えられるレーザーの強度を高める装置。2枚の鏡の間を光が往復するタイプ、4枚の鏡で蝶ネクタイ状に光を往復するタイプなどがある。本研究では4枚鏡の装置を用いた。

6) コンパクトERL

エネルギー回収型リニアック(ERL)は、高輝度かつ大電流の電子ビームを加速できることから、X線シンクロトロン放射光や自由電子レーザーなどへの応用が可能である。KEK、原子力機構などの共同チームは、将来のERL型光源に向けた技術開発の一環として、ERLの試験加速器としてコンパクトERLを完成し、運転を行いながら、ERLの基盤技術を高める研究を進めている。

7) 最小30μmの微小サイズ

ここでは、電子ビーム、レーザービームともに、横方向(進行方向に垂直な平面)の分布を正規分布で近似した時、その標準偏差をサイズとして定義している。

8) 準単色X線

医療用レントゲンに用いられるX線管はエネルギーが100%広がっており白色X線と呼ばれる。シンクロトロン放射光を結晶分光器に通した時に得られるX線はエネルギー幅が0.1%以下となり単色X線と呼ばれる。エネルギー幅が0.1%-数%のX線を準単色X線と呼ぶ。

9) 蓄積リング型X線光源

光速近くまで加速した電子ビームを円形軌道を持ったリングに溜めこみ、軌道上に配した電磁石により電子が曲げられた時に接線方向に放射されるX線(シンクロトロン放射光)、永久磁石による交番磁場により電子が蛇行した時に放射されるX線(アンジュレータ放射)を利用する施設。国内では、国立研究開発法人理化学研究所のSPring-8(スプリングエイト)やKEKのフォトンファクトリーがその代表。

10) X線自由電子レーザー

線形の加速器で発生する電子ビームを永久磁石による交番磁場に導き、放射されるX線の自己増幅作用によるレーザー発振を得る装置。国内では国立研究開発法人理化学研究所のSACLAがある。

11) X線管

X線を発生するための真空管。陰極と陽極の間に高電圧(数万から数十万ボルト)を印加し、陰極から引き出した電子を加速し陽極ターゲットに衝突させることでX線を発生する。簡便にX線を発生することができるが、シンクロトロン放射に比べると輝度は低い。

12) リニアック(線形加速器)

電子を直線的に高エネルギーまで加速する装置。蓄積リング加速器へ電子を入射するのに用いられる他、X線自由電子レーザにも用いられている。

13) 蓄積リング加速器

光速近くまで加速した電子ビームを円形軌道を持ったリングに溜めこみ、電子を繰り返し周回させる装置。X線光源(シンクロトロン放射光)や高エネルギー物理実験に用いられている。


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