【用語説明】

1) 京

理化学研究所(神戸)に設置されたスーパーコンピューターの愛称で、富士通が製作を担当した。開発費は約1,100億円である。1秒間に1京回(510兆回)の計算速度を誇るため、「けい(京)」と名付けられた。2011年6月のスパコン世界ランキング(TOP500:http://www.top500.org/)では、日本勢として7年ぶりに第1位になった。2012年7月にそのすべてが完成した。

864台のラック(筐体)から構成され、1ラックにはCPU(Central Processing Unit: 中央演算処理装置)が102(ノード)個搭載(計算ノードとしては96個)されている。CPU(ノード)はマルチコア技術で作られており、1CPUは8つのコア(CPU)を持つことから、京は総数663,552個 (82,944ノード(=864ラック×96ノード)×8コア)のCPUを利用できる並列計算機である。ここで、マルチコア (Multiple core, Multi-core)とは、1つのCPU内に複数のCPU(プロセッサ・コア)を封入した技術であり、一見には1つのCPUに見えるが利用上、それ自体が並列計算機(複数のCPUで構成される演算器)として使える。

2) 超並列計算環境

並列計算(parallel computing)は、複数のCPUで1つの計算をさせることである。並列コンピューティングや並列処理とも呼ばれる。このような計算のために設計されたコンピュータを並列計算機という。明確な定義はないものの、超並列とは並列計算の中で並列数の多いことをいう。超並列計算機 (Massively parallel machine) は1990年代初頭から台頭し、地球シミュレーターなどが、その代表である。時代と共に並列度は増えるため、何個以上のCPU数で超並列であるというはっきりとした定義はないが、一般にその時代の最先端の並列計算機を超並列計算環境あるいは超並列計算機と呼ぶ。

3) 組立構造解析

これまでの大型施設、プラント、機器などの耐震性は、振動台と呼ばれる実験施設に縮尺した模型を載せて実際に揺らし、その挙動を分析している。「組立構造解析」は「京」を使って計算機内で発生させた地震波でデジタル化された大型施設や機器を揺すり、その耐震性や挙動を数値計算で分析する。

構造物は特別な削り出し品以外は、一般に二つ以上の部品から組み立てられている。組み立て品は、削り出し品のように一つの部品であるかのように連続体として有限要素法により計算することが一般的である。しかし、多くの部品からなる一般的製品やプラントは、それ自体を一つの部品と見做して有限要素法により計算すると精度が保てない場合が多い。この課題を解決するために、当時の日本原子力研究所は組み立て品を構造解析する技術の研究開発に着手した。組立構造解析とは、部品の結合状態を「あるがまま」にデジタル図形化し、その結合条件を付与して有限要素解析する技術である。これにより例えば、ボルト締結部のボルト破断などを構造物全体の解析と同時に計算する。

4) 耐震性評価

原子力施設等の安全設計では、自然現象を含む種々の設計条件を考慮した場合にも公衆及び従事者等に過度の放射線被曝を与えないように施設を設計することが要求されている。この自然現象の一つとして地震があり、原子力施設等が大地震に遭遇した場合にも、この要求を満たす必要がある。すなわち安全設計の一環として耐震設計が行われている。設計は一般に、「統合と分析」から成るとされており、評価は多くの分析結果を統合することによって生まれる総合的な知見である。建物・構築物は、それ自体が安全上の機能を直接的に要求されるものは少なく、支持あるいは収納する安全上重要な設備の支持機能を損なわないという観点から耐震性(支持機能)を確保する評価が必要とされている。機器・配管系については、その耐震重要度に応じて、耐震安全性を応力解析等により確認している。この場合、数値計算(解析コードによる分析)が使われることが多々ある。

5) 共振しやすい状態

構造物それぞれがもつ、揺れやすい特定の形(振動形)であり、固有振動モードと呼ばれる。この振動形は特定の揺れの速さ(固有振動数)に対応しており、この速さの揺れが地震波に含まれると、揺れが大きくなる共振現象が起こる。

6) ビームモデル

骨組み構造の解析を行うために、複雑な構造物の部材、例えばH型鋼(図7)をビーム(直線)で置換して、計算するためのモデルを作成する。骨組み構造物の解析をするための伝統的な方法である。モデル化には経験と知識が不可欠であり、上手にモデル化できると簡単な計算で正しい答えが得られる。物理的な意味も分かりやすい一方で,個々の問題に適した妥当なモデルを作れるかという合理的判断に課題が残る。あるがままのシミュレーションとこのビームモデルによるシミュレーション結果を比較すると、図8に示すように、ビームモデルでは大雑把な挙動しか見て取れず、「あるがまま」のシミュレーションでは部材の特長に沿った詳細な解析結果が見て取れる。

図7
図7 次世代型化学プラントの骨組構造おける
部材(H型鋼)の例 

骨組構造は、様々な断面をもった鋼材により組み立てられます。代表的なものがH型の断面をもったH型鋼と呼ばれるものです。ビームモデルでは、その断面がH型であったり、ロ型やL型でもそれぞれ同じ直線でモデル化されます。ここでは、部品ごとに色を変えて表示してあるように、様々な部品から構造物が組み立てられています。

図8
図8 ビームモデルと「あるがまま」のシミュレーションの解析結果比較例

(a)のビームモデルでは、(b)の「あるがまま」シミュレーション結果と比べて、俯瞰的な挙動の特長を見て取れますが、部材の断面(H型)等における詳細な挙動は直接的には見て取れません。押し付けられる力が働いているところが赤色に近くなり、引っ張られる力働いているところが青色に近くなる様子を可視化しています。

7) 有限要素法

有限要素法は数値解析手法の一つで、解析対象となる構造物を微小で単純な要素(立方体など)の集合体で細かく分割し、それらの要素ごとに力の釣り合い状態などを計算し、最終的に全要素の挙動をまとめて、解析対象物の挙動を近似値として求める。現在では、一般的な力学計算手段として多用されている。

8) マルチコア

演算器(CPU:Central Processing UnitやMPU)の高速化は、演算器の中の配線の短小化、工作的には微細化加工により、その集積度を上げることで、動作速度の向上をしてきた。一方で、単一の演算器で高速化を図るのみではなく、複数の演算器を並列に並べ、たくさんの処理を同時平行して行い、計算の全体の処理速度の向上をするという方法もとられてきた。従来はひとつの演算器を単位(チップ)として製作しかできなかったが、微細化加工技術の進歩により、一つのチップに複数の演算器を入れ込むことが可能となった。これをマルチコア化と呼び、一つのチップに複数の演算器(コア)を搭載することによって、効率的な並列演算が可能な演算器へと進歩した。


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