【用語説明】

1) 高温ガス炉(図1)

高温ガス炉は、①冷却材に化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、②燃料被覆材にセラミックスを用いているため、燃料が1600℃までの高温に耐え、核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、③出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心構造物に高熱伝導・大熱容量の黒鉛を用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと等の安全性に優れた原子炉である。また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造等の発電以外での利用等、原子力の利用分野の拡大に役立つ原子炉である。

図1

図1 高温ガス炉の特長

2)安全基準

IAEAの安全基準は、防護と安全の目的、概念、原則を提示する「安全原則」、安全を確保するために満足されなければならない要件を規定する「安全要件」、安全要件を遵守する方法についての推奨や手引きを示した「安全指針」の三階層により構成される。

原子力機構がIAEAに提案する高温ガス炉の安全基準案では、HTTRを用いた試験により実証された、炉心流量喪失に制御棒挿入失敗が重なったような状況においても、原子炉が安全に静定し、環境への放射性物質の大量放出がない安全性を有することを原子炉設計に要求している。

3)セラミックス被覆燃料

原子炉の燃料となる二酸化ウラン等を熱分解炭素や炭化ケイ素などのセラミックスで多重に被覆した構造を持つ直径1mm程度の粒子状燃料。耐熱性に優れ、これまでの実証実験においては、1600℃程度の高温状態においてもその健全性が損なわれることがなく、燃料被覆材の中にFPを閉じ込めることが可能である。

4)高温工学試験研究炉(HTTR)

我が国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉(高温ガス炉)で、熱出力30 MWt、原子炉出口冷却材最高温度は950℃である。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30 MWt及び原子炉出口冷却材温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃、平成22年3月13日に950℃、50日間高温連続運転を達成した。

高温ガス炉は、固有の安全性によって、原子炉の安全運転に求められる自然に止める、冷やすことができる。燃料として、1600℃の高温までFPを完全に閉じ込めることが可能な耐熱性に優れたセラミックス被覆燃料を用いているため、冷却材が喪失し、さらに、原子炉がスクラム失敗したような場合でも、軽水炉とは異なり燃料温度が制限値を超えることがなく、温度上昇に対応して燃料中のウラン238が中性子を捕獲する確率が増えることで核分裂する確率が相対的に小さくなり、原子炉の出力は自然に低下し未臨界となる。その後、蓄積したキセノンが崩壊し原子炉は再び臨界になり、炉心の温度上昇による負の反応度とつり合った微小出力で安定する。さらに、熱容量の大きい黒鉛構造物の使用と、長尺形状及び低出力密度を採用した炉心設計により、事故時の崩壊熱による炉心の温度変化は緩慢であり、崩壊熱を、黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器外側からの熱放射、大気の自然対流によって原子炉圧力容器外へ除去することが可能である。

この優れた高温ガス炉の固有の安全性は、平成22年12月から国際共同試験としてHTTRを用いて実証試験中である(図2)。

図2

図2 高温工学試験研究炉(HTTR)を用いて、高温ガス炉の固有の安全性を実証中


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