【研究の内容】

イッテルビウム(Yb)などの重元素化合物は、磁石や超伝導材料などの電子機能性材料としても広く利用されています。今回研究したYbRh2Si2は磁場によって電子状態が大きく変わる物質として注目されていましたが、その詳細は明らかではありませんでした。本研究では、まず不純物の影響を避けるため、非常に均質で高純度の試料がフランス原子力庁グルノーブル研究所で合成されました(図1)。次に、原子力機構が開発した高精度低温核磁気共鳴法(NMR)を用いることにより、試料の電子状態分布を原子スケールで測ることが初めて可能になりました。

図1:高純度YbRh<sub>2</sub>Si<sub>2</sub>単結晶  図2:核磁気共鳴(NMR)法測定装置

その結果、低温1K(-272度)以下で特異な電子状態が現れることを発見しました。磁場が高いとき(7テスラ周辺)には電子状態は均一ですが、磁場を下げていくと2種類の電子状態(まだら模様)が現れることが分かりました。図2にその様子を示します。高磁場では青い電子状態(図左)だけが現れ、均一な電子状態です。しかし、低磁場にすると異なった赤い電子状態が現れ始め、まだら模様の電子状態(図右)になります(0.6テスラ周辺)。赤い電子は動きにくい、つまり原子の位置にへばりついた局在性を持ち、青い電子は、動きやすい、つまり原子間を行き来する遍歴性を持つことも分かりました。

図3:電子状態のイメージ図 磁場の大きさによって状態が変化

このように磁場で制御できるまだら模様の電子状態は、いままで例がなく、基礎物性物理学の観点から大きな興味が持たれています。また2つの電子状態ではYbの原子価数3)が異なっていると考えられ、重元素を利用した原子力材料の価数分離・精製技術4)及び磁場による電子スイッチング機能素子5)への応用も期待されます。

【今後の展開】

今後の詳細な解析により、重元素系化合物の電子状態理解と制御に挑戦し、基礎物性物理学の進展、将来の原子力基礎科学の充実を図ります。

【論文名・著者名】

“Degenerate Fermi and non-Fermi liquids near a quantum critical phase transition” (量子相転移近傍での縮退したフェルミそして非フェルミ液体)
S. Kambe, H. Sakai, Y. Tokunaga, G. Lapertot, T.D. Matsuda, G. Knebel, J. Flouquet & R.E. Walstedt.
To be Published in Nature Physics


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