●研究の背景

純酸化物イオン伝導体および酸化物イオン-電子混合伝導体などの、酸化物イオン伝導性材料は、燃料電池、酸素分離膜およびガスセンサーなどに幅広く応用されている。 酸化物イオン伝導度は結晶構造に強く依存するので、新しい構造ファミリーに属する新規酸化物イオン伝導体を発見すれば、酸化物イオン伝導体の応用の革新的発展へ向けた新しい扉を開けると期待されていた。

●研究の経緯と研究成果

1.酸化物イオン伝導性材料の新構造ファミリーNdBaInO4の発見

八島教授らの研究グループは、新しい層状ペロブスカイト関連構造(用語6)をデザインするために、AA'BO4の様々な化学組成を調べてきた。 AA'BO4AA'は大きな陽イオンであり、Bは小さな陽イオンである。 この研究で多くの化学組成を調べた後、酸化物イオン伝導性材料の新しい構造ファミリーであるNdBaInO4を発見した。

陽イオンとしてNd, Ba, Inを選択した理由は、①NdとBaのサイズが異なるためBa/Ndの陽イオン規則化が期待される②BaとInのイオンサイズからペロブスカイトユニットが形成されると考えられる―からである。 NdBaInO4は、BaCO3, In2O3 および Nd2O3 粉末を用いて、1400 °Cにおける固相反応(用語7)により合成した。 図2に示すようにNdBaInO4は酸化物イオン伝導を示す。後述するように、NdBaInO4試料は、新しい結晶構造を持つ単斜単相である。 つまり、この研究において酸化物イオン伝導体の新しい構造ファミリーを発見したことになる。

図2

図2:
 左:NdBaInO4の全電気伝導度の酸素分圧依存性。
 中央:NdBaInO4の空気中における全電気伝導度およびイオン伝導度のアレニウスプロット(用語8)
 右:直流電気伝導度測定のために白金線をつけたNdBaInO4試料。

2.結晶構造解析と酸化物イオン拡散経路の可視化

中性子および放射光X線粉末回折法(写真1と2、図3と4)および第一原理電子状態計算(用語9)でNdBaInO4の結晶構造を調べた。 中性子回折では酸素原子の位置パラメーターを正確に決めることができる。 また、X線粉末回折データを用いてNdBaInO4未知結晶構造解析(用語10)を実行した。

その結果、NdBaInO4の空間群は単斜晶系のP21/c(用語11)であることが見いだされた。 NdBaInO4の結晶構造(図5)の妥当性を①SPring-8および②PFで測定した放射光X線粉末回折データのリートベルト精密化(用語12)、 ③J-PARCおよび④ANSTOで測定した中性子回折データのリートベルト解析、 ⑤Nd, BaおよびInイオンの結合原子価の総和(用語13)、 ⑥密度汎関数理論に基づいた構造最適化―により確認した。

NdBaInO4の精密化した結晶構造は、A-希土類酸化物A-O (Nd-O)ユニットと (A,A')BO3 (Nd2/8Ba6/8InO3) ペロブスカイトユニットからなっている(図5)。 このことは、新しいA/A'の陽イオンが規則化したペロブスカイト関連層状構造であることを示している。 この新構造の際立った特徴はInO6(B O6)八面体の稜がA-O (Nd-O)ユニットに面していることである(図6)。 NdBaInO4の酸化物イオンの拡散経路を結合原子価法(用語13)により可視化した(図7)。酸化物イオンはA-O (Nd-O)ユニット内を2次元に移動できる。

写真1

写真1:J-PARCにおける中性子回折計iMATERIA(左)とANSTOにおける中性子回折計Echidna(右)の写真。

写真2

写真2: SPring-8のBL-19B2に設置されている放射光X線回折計の写真(左)およびKEKのPFのBL-4B2に設置されている放射光粉末回折計(右)。

図3

図3:NdBaInO4の放射光X線粉末回折データのリートベルトパターン(27°C).

図4

図4:NdBaInO4の中性子粉末回折データのリートベルトパターン(左: 24°C, iMATERIA@J-PARC; 右: 23°C と1000°C, Echidna@ANSTO).

図5

図5: 本研究において決定したNdBaInO4の結晶構造 (24°C).

図6

図6:従来のペロブスカイト関連構造における、頂点酸素がA-Oユニットに面しているという特徴(左、例:K2NiF4型酸化物)。新構造ファミリーにおける、稜がA-Oユニットに面しているというユニークな特徴(右NdBaInO4)。

図7

図7:1000°C、NdBaInO4における酸化物イオンの拡散経路 (図の⇔).


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