用語解説

1) 侵入型水素化物

金属格子の隙間に水素が侵入することによって形成される水素化物。侵入型水素化物では図2右側の模式図で示した様に原子の並び方がわずかに変化し、原子の作る格子の体積が膨張することで水素を取り込むことができます。侵入型水素化物は繰り返して水素の吸放出を行うことができ、また合金組成を変えることで水素を吸放出する温度や圧力を制御することも可能です。

2) 放射光その場観察

高温高圧実験では試料のまわりが圧力を発生するための部材で密閉されているため、試料の様子を調べる手法は非常に限られています。このため通常は高温高圧下で処理した試料を常温常圧下に回収し分析を行うことで、高温高圧下でどのような反応が起きているのかを推測します。大型放射光施設SPring-8が発生する非常に強力なX線は試料のまわりの部材を透過することができます。透過X線によるX線回折という手法によって高温高圧下の試料の様子をその場で観察することができるようになります。

3) 第一原理計算

実験や経験から得られたパラメータを一切用いず、自然界の基本法則に忠実に基づいて行う理論計算です。物質の性質(結晶構造や電子状態など)を高い精度で計算することができます。本研究では、実験で得られた結晶構造の正しさや、目的とする侵入型水素化物が得られているかどうかを検証するために利用しました。

4) 錯体水素化物

一般式M(M’Hx)yで表されるM’Hx錯イオンから形成される水素化物。Mはおもにアルカリ金属やアルカリ土類金属をM’はホウ素やアルミニウムなどの元素群を示します。代表的な錯体水素化物の一つであるLiAlH4の結晶構造を図4に示します。LiAlH4ではアルミニウムと4個の水素が結合して錯イオン[AlH4]-を作っています。LiAlH4は加熱することによって水素を放出しますが、水素放出後のリチウムとアルミニウムはLiAlH4とは全く異なる並び方になります。錯体水素化物は一般的に水素を放出した後にもう一度水素を貯蔵させることが難しいため、繰り返し水素吸放出を実現することが困難です。

図4 代表的な錯体水素化物の一つであるLiAlH4の結晶構造


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