【研究開発の背景と目的】

原子力機構は、ITER計画において、核融合反応が起こる温度までプラズマを加熱するとともに、その温度を定常的に維持する中性粒子入射装置(NB)の電源の高電圧部を開発しています。ITERのNBでは、負イオンを直流100万ボルトの高い電圧で加速してビームを発生させ、それを中性化してプラズマに入射します。負イオンを生成する機器へ電力を供給する変圧器2次側の6600ボルト交流出力系統は、加速用の直流100万ボルトの超高電圧で充電されます。そのため、図1に示すように100万ボルトの超高電圧を絶縁できる変圧器の製作技術を確立する必要がありました。特に変圧器の2次側から大気中に電力を引き出すための端子である「ブッシング」の開発が大きな課題でした。これまで世界中で使用されている絶縁変圧器の最高絶縁電圧は、原子力機構の臨界プラズマ試験装置JT-606)で使用しているNB(JT-60用NB)7)の電源における直流50万ボルトでした。そこでは、碍子製コンデンサーブッシングが用いられています。ITERではその2倍の電圧を保持できる絶縁変圧器が必要です。さらに、JT-60では運転時間が10秒と短時間ですが、ITERではその360倍の3600秒と準定常の運転になります。既存の碍子製コンデンサーブッシングは、直流、交流ともに短時間の高電圧には耐えられますが、長時間直流になると同じ電圧であっても絶縁破壊に至るという特性を持っています。この特性を考慮して従来の2倍の超高電圧を長時間絶縁する変圧器の引出しブッシングを開発する必要がありました。

図1 ITER用NBI電源絶縁変圧器と電源システム高電圧部全体

【研究の手法】

JT-60用NBに使用される直流50万ボルトの絶縁変圧器では、直径約1m、高さ約5mの碍子製コンデンサーブッシングが用いられています。また、交流100万ボルトを絶縁できる碍子製コンデンサーブッシングは既に開発されていますが、長時間直流絶縁には使用できません。長時間直流絶縁を考慮して100万ボルト変圧器に碍子製コンデンサーブッシングを用いる場合は、直径2m程度、高さ10mとなり(図2左図参照)、これまでにない巨大なセラミックが必要となるとともに、長時間に耐えられるように構造の改善も必要なため製作が困難でした。

そこで、小型の碍子製コンデンサーブッシングに繊維強化プラスチック(FRP)絶縁円筒を被せた碍子/FRPの2重複合型ブッシングを考案し、新たに開発しました(図2右図参照)。FRP(図中(a))を被せた内側には絶縁ガスである六フッ化硫黄(SF6)ガスを充填します(b)。碍子製ブッシング(c)の一方は変圧器巻線の二次側(d)と油絶縁領域で接続され、もう一方はSF6ガスで絶縁されて出力側と接続されます。さらに、FRP絶縁円筒の内部はSF6ガスで、外側は大気絶縁(e)となります。大気側については、絶縁沿面距離を十分に持たせる構造としました。これにより、コンデンサーブッシングで油-ガス絶縁を行い、FRP絶縁管でガス-大気絶縁を行うように役割を分担させることができました。このような複合ブッシングにおいても、電界解析を実施して、可能な限り一様な電界分布となるように構造を決めました。この2重複合ブッシングに使われる内部の碍子コンデンサーブッシングは、直径1m以下、高さ4m以下となり、重量は1/10程度になります。これにより、100万ボルトの直流超高電圧に使用できる絶縁ブッシングの技術的実証のみならず、大幅な低コスト化と軽量化が同時に実現できました。

これらを組み合わせた絶縁変圧器試験体の全体を図3に示します。下部のタンク内に絶縁が施された変圧器巻線が収納され、引出しブッシングによって出力が大気側へ取り出される構造となっています。試験においては、変圧器とブッシングを組み合わせて耐電圧試験を実施しました。その結果、ITERの使用電圧を超える直流120万ボルトを1時間安定に保持することに成功し、さらに直流106万ボルトを定常となる5時間保持し、定常状態でも安定な絶縁性能を実証することができました。

図2 従来型の碍子ブッシングと小型碍子とFRP絶縁円筒から構成する複合ブッシング

図3 開発した直流100万ボルト絶縁変圧器

【得られた成果】

以上の結果、直流100万ボルトを超える絶縁変圧器の開発に成功しました。これにより、ITERのNB電源開発の製作技術が確立できました。また、本件で開発した直流100万ボルトを超える絶縁変圧器の技術は、今後普及が期待される長距離低損失送電のための100万ボルト級直流送電(UHVDC)に不可欠な直流変換器用超高圧変圧器へ応用できます。

【今後の予定】

本研究成果は、平成25年3月22日に名古屋大学で開催された電気学会全国大会で発表しました。

また、研究開発の成果をもとにITERのNB電源実機の絶縁変圧器の調達を実施し、ITERに組み込む予定です。


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