【用語説明】

1)光陰極直流電子銃
半導体や金属の表面にレーザー光を照射した時に表面から飛び出す電子を直流電界で引き出す装置。光陰極電子銃は、電子パルスの時間構造をレーザーパルスで制御でき、また、運動量とエネルギーのそろった電子を生成できることから、熱陰極電子銃(フィラメントを熱して電子を引き出すために電子ビームが大きな熱運動量をもってしまう)に比べてエミッタンスの小さな電子ビームを生成できる利点がある。ERLの光陰極直流電子銃では、半導体であるGaAs(ヒ化ガリウム)を用いる。
2)γ線
ガンマ線。可視光線や紫外線などと同様に電磁波の一種。波の波長がピコメートル(1ピコは10の12乗分の一)、エネルギーが100万電子ボルト以上の電磁波を指す。エネルギーが高いことから、物質を透過する能力が強く、イメージング、ガン治療、放射性滅菌等に利用されている。ちなみに可視光は、波長は380〜750ナノメートル(1ナノは10の9乗分の一)、エネルギーは1.7〜3.3電子ボルト程度。
3)エネルギー回収型リニアック(ERL)
超伝導加速器を用いて電子を高周波加速し、高エネルギー電子ビームを放射光発生に利用した後、同一の加速器を「減速器」として動作させ、電子ビームエネルギーを高周波エネルギーとして回収し、後続電子の加速に再利用する技術である。高周波で動作する超伝導加速器では、電子を入射するタイミングを選ぶことで加速、減速のどちらも可能であることを利用している。
4)kVとkeV
kV(キロボルト)とkeV(キロ電子ボルト)。電子ビームのエネルギーは加速電圧(kV)と素電荷(e)の積であり、単位は(keV)となる。
5)暗電流
ビーム電流が何らかの外部制御によるコントロール下で生成されるのに対し、暗電流は高電圧印加をするだけで陰極から発生する不必要な微弱電流。電界放出電子8)に起因する電流であり、電圧と共に指数関数的に増大する。ビームラインと異なる方向に発生すると、真空容器に衝撃し放射線を発生したり、真空度劣化の原因となる。
6)XFEL
電子ビームを用いて生成するX線領域のレーザーである。10GeV程度に加速した電子ビームの発生するアンジュレーター放射光を、自由電子レーザー相互作用によるコヒーレント増幅により数桁以上に増倍し、高輝度のX線パルスを生成する装置である。日本では理研播磨のSACLAで2011年から運転が開始され利用実験に供されている。
7)空間電荷効果
電子ビームは多数の電子の塊である。マイナスの電荷を持つ電子には互いに反発する空間電荷力が働く。この空間電荷効果が強く働くと、ビームの飛行に従って徐々に発散が大きくなり、ビームのエミッタンスが大きくなる現象が起こる。電子を高いエネルギーに加速することで、空間電荷効果を弱め、エミッタンスの増大を抑止することができる。
8)電界放出電子
物体の表面に強い電界がかかった時に、表面から引き出される電子。表面に微小な凹凸があったり、付着物があったりすると、局所的に多数の電界放出電子が生じる。
9)不均一な非平衡解放系のダイナミックス
気相や溶液中などの均一系に対し、固液界面や固気界面などを不均一系という。また、絶えずエネルギーや物質の流入、流出がある系を非平衡開放系と呼び、生命などが例である。生命現象である光合成では水と二酸化炭素が反応して酸素と糖を作り出すが、そこでは触媒が重要な働きを果たす。光合成の初期過程である触媒と水の酸化還元反応はその界面で起こるが、反応ダイナミックスの詳細は未だ解明されていない。高輝度フェムト秒X線パルスを生成できる次世代光源を用いてその反応機構を詳細に理解することは、近年注目されている人工光合成の研究開発にとっても極めて重要である。

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