用語説明

【新酵母開発】
清酒は、観光や地場産業振興の有力なツールであり、特色を持った商品が求められています。清酒の消費は他の飲料との競合により全体では減少傾向が続いているものの、吟醸酒や純米酒など、付加価値を有するものについては踏みとどまっており、酒造蔵はこの分野に生き残りを賭け注力しています。このような背景から、各県の試験研究機関では独自の清酒酵母開発を進めています。群馬県では、県内清酒の高品質化・差別化を意図して、平成3年度から県独自の清酒酵母育種を開始し、平成14年に県独自の吟醸用清酒酵母(群馬KAZE酵母)を既に実用化しています。
しかし、消費者の嗜好は時代と共に変わるので、市場ニーズに迅速に適応すべく、新たなタイプの清酒酵母の開発を継続的に行う必要があります。そこで、群馬産業技術センターと原子力機構は、共同で新しい育種法による酵母の開発に取り組みました。
【吟醸酒】
清酒(日本酒)のうち、香りが高くなるように「吟醸造り」という特別な製造法を行ったものを指します。
【吟醸用清酒酵母】
清酒は酵母と呼ばれる微生物の働きにより、米の成分をアルコールへと発酵させて製造します。酵母には様々な種類がありますが、吟醸酒を製造するのに適した酵母が「吟醸用清酒酵母」です。
【イオンビーム育種技術】
我が国が世界を先導する量子ビームテクノロジーの1つ、「イオンビーム育種技術」とは、サイクロトロンなどの大型の加速器で光の速度の数十%まで加速させたイオン粒子を植物の種子や葉、微生物の細胞に当てて、有用な形質の品種を育成する方法です。イオンビームは、遺伝子の限られた場所だけに大きなエネルギーを与えるため、原品種の良い特性を保持しながら、目的の形質だけをワンポイントで改変できることや、他の育種法では得られにくい新しい形質を作り出せることが特徴です。これまでに、キク、カーネーション、メロン、イネなどの植物の新品種、バイオ肥料やバイオ農薬として使用する農業微生物がイオンビーム育種によって作出されています。
今回、群馬産業技術センターで調製した「きょうかい901号酵母」に対して、原子力機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)で発生させた炭素イオンを照射することにより、新しい吟醸用清酒酵母を作り出すことに成功しました。
【きょうかい901号酵母】
公益財団法人日本醸造協会から頒布される「きょうかい酵母」のひとつ。901号酵母は、華やかな香りと吟醸香が高いため、吟醸酒に向いており、今日でも吟醸酒の多くに用いられています。
【醸造試験】
イオンビームを照射した2000株以上の酵母変異株から、香り成分の生成量を指標に選抜を進めました。選抜した優良株(候補)について、群馬産業技術センターで白米60kg規模の試験醸造を3年間にわたり実施し、十分な醸造適性があるものを最終的に絞り込みました。
【香り成分 カプロン酸エチル】
吟醸酒の主要な香り成分で、林檎や洋梨等の果実にも含まれる脂肪酸の一種。日本酒の中でも、低温で長時間かけて発酵させて造る吟醸造りで生成されやすく、吟醸酒には数100ppb〜数ppm 程度含まれています。
【新酵母の特徴】
今回開発に成功した新酵母は、カプロン酸エチルの生成量が群馬KAZE酵母を上回り、群馬KAZE酵母とは異なる独特の甘い香りが特徴的です。発酵力も従来の群馬KAZE酵母と遜色ないことから、新たなタイプの吟醸酒製造が期待できます。
【成果の意義及び今後の展開】
今回の成果は、群馬県立産業技術センターと原子力機構の2者による地域に根ざした連携により結実したものです。今回開発した新酵母は、今後、群馬県オリジナルの新しい吟醸酵母として、希望する県内酒造蔵に頒布する予定です。

戻る