独立行政法人 日本原子力研究開発機構

世界で初めて239Pu核磁気共鳴信号の観測に成功
−新たなプルトニウム科学の幕開け−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 鈴木 篤之】 先端基礎研究センターの安岡弘志非常勤嘱託、中堂博之任期付研究員及び米国ロスアラモス国立研究所(LANL)【所長Charles McMillan】の Dr. J. Thompson、Dr. D. Clark らの研究グループは、世界初となる239Puの核磁気共鳴(NMR)信号を二酸化プルトニウム(以下「PuO2」)において発見しました。

NMRは原子核の持つ磁石としての性質を利用し、きわめて低いエネルギーのラジオ波を用いて原子核周辺の電子状態を知ることができる極めて有効な研究手段です。そのため、NMR測定法は今や、物理学はもちろん、化学、生物分野の分子構造解析や医療分野のMRI等、非常に広い範囲に応用されています。

1946年の水素原子核のNMR信号観測成功以来、様々な原子核の信号が発見され、今日では90種類を超える原子核でNMR測定が可能となりました。しかしながら、周期表の最下段にあるアクチノイドと呼ばれる元素やその化合物のNMR測定実績は235U核しかありません。これはアクチノイド原子の作る非常に強い磁場のために、共鳴のために励起した原子核がもとの状態に戻るまでの時間(原子核の緩和時間)が非常に短いためです。アクチノイドの元素やその化合物は、核燃料として非常に重要な物質です。しかしながらそれらの電子状態などミクロな性質は必ずしも明らかでなく、物性を担っているアクチノイド元素の電子状態を直接調べることができるアクチノイド原子核のNMR測定が切望されています。特に239Pu核のNMRに関しては過去50年間世界中の研究者が探索してきたにも関わらずこれまで成功していませんでした。

本研究グループは、2011年9月LANLにおいて、NMR信号観測に有利な磁性をほとんど持たない純良なPuO2を用いて、239Pu核のNMR信号を探索し、その信号を観測することに成功しました。この発見は239Pu核の核磁気モーメントを決定した大きな発見であるとともに、核燃料であるPuO2やその他プルトニウム酸化物、プルトニウム超伝導体、プルトニウム有機錯体など、プルトニウム関連物質において、物性を担うプルトニウムイオンの電子状態の直接観測が可能となることを意味しており、今後プルトニウム基礎科学分野や原子力工学に新たな可能性が開かれると考えらます。特に世界的な問題である、プルトニウムを含む核燃料廃棄物の長期安全保存に関して、プルトニウム の酸化過程を解明できる唯一の手段として注目されています。

本研究成果は、5月18日(現地時間)、米国科学誌「 Science (サイエンス)」に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:先端基礎研究センター

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